さすが、予想から1㎜もズレない返事が返ってくる。彩響の口から自然とため息が出た。


「あなたにとっては仕事場ですけど、私にとっては家ですよ?『スイートホーム』なんですよ?なんか、そんな呼び方されると、ずっと取引先とミーティングルームで会議しているようで嫌なんですよ」

「ですが、会社で教育を受けるときは、こうするべきだと…」

「あーあー!こんなに言うことを聞かない従業員なんて、もう早速首にしちゃた方がいいかな!その方がいいのかな~!」


実際、Cinderella社と書面で契約を交わした以上、そう簡単に家政婦を変えることはできない。でもこの頭の固い人にはこれくらい言わないと多分通じないのだろう。三和さんはすごく困った顔でぶつぶつ言い出す。


「く、首は大変…困ります…」

「ですよね?だから、名前で呼んでください」

「な、なら…峯野様も俺を名前でお呼びください。敬語も要りません」

「え、私?どうして?」

「雇用主様を名前で呼ぶのに、その逆は敬語とか、ありえません。ここはせめて平等にして貰わないと」

「…私は別にいいんですけど…」

「俺は困ります。従業員の立場も考えてくださる、心優しい雇用主様になって頂ければ…と思います。お願いします」


まあ、お互い楽に過ごせる家(彼にとっては職場)になるのなら…呼び方を変えるくらい、そんな大変なことでもないし。彩響は早速答えた。


「じゃあ、『寛一さん』。…これでいいかな?」

「…!あ、はい」

「…」

「…」

「…で、私の名前は?」

「あ、そう、そうですね。あの、その…」