まるで、社長室の話を聞いて苦しかったあの日のようだ。その日も鏡を見て絶対辞めないと決心していた。今日の出来事もきっとなんとかなる…。

(本当に…?)

でももうここで自分を守ってくれる人は誰もいない。すべてを他人のせいにして、結局人生ダメにした母のようにはなりたくない。だからこれからも何とかする、自分の力で。

深呼吸をして、彩響は自分の顔を数回叩いた。再び「主任峯野彩響」に戻る瞬間だった。



長い一日を過ごし、へとへとになって家に帰ってきた。普段だったら玄関を開けた瞬間目の前に家政夫さんが待っているのに、今日はその姿が見えない。彩響がリビングに入ると、正座した状況で洗濯物をたたんでいる寛一さんが見えた。丁度持っていたのが自分のパンティーで、又か…と思いながら彩響が声をかけた。


「ただいま」

「…!彩響さん?!」

「こんな時間まで仕事だったんですね。お疲れ様です」


寛一さんは慌てて自分が持っていた下着を後ろに隠すのが見えた。何よ、別にいまさら隠すことでもないのに…変な目で見ると、寛一さんがもっと慌てた。


「お、お帰りなさいませ…」

「なんですか、今更私の下着弄るくらいで一々ぎゃーぎゃー言いませんよ。堂々とすれば良いじゃないですか」

「嫌、その…あの、それが…」


珍しく寛一さんの顔が赤い。あれだけパンティを弄りたがっておいて、今更なに?ますます疑問が広まる彩響の目に、見たことのないものが入った。これは、白い…布?レース?しかも結構面積の広いレースだ。

「何ですか、これ?」

「え?あ、その…それが…あ、し、下着を修理していました」

「え?こんなひらひらレースで?」

「その、おしゃれ感が足りないと思い…」

「はあ…」


この変態は、一体、どこまで人の下着に執着するのか…!もうあれこれ言う力もなく、彩響はそのまま気がが抜けたように笑った。会社での出来事でもう頭がいっぱいだ。これ以上何も難しいことは考えたくない。


「寛一さん、夕ご飯食べました?」

「え?あ、いいえ、まだ…」

「じゃあ今日は外で食べましょう。私が奢るから」

「はい?ですが、夕食の準備は俺の仕事で…」

「いいから、なんかしょっぱくて甘くて刺激的なもの食べたいの。たまには良いでしょう、そういうの」

「…そんなものがあるんですか?」

「あるよ!甘くて、しょっぱくて、刺激的なやつ!だから一緒に行こう!」

「は、はい!」