いつ来てもここは慣れない。彩響は深呼吸して扉を開けた。中にはなるべく顔の見たくないあいつが座っていた。


「編集長、なにか御用でしたか?」

「峯野、来たか。ちょっとそこに座れよ」


言われるまま客用のソファーに座ると、編集長がそのすぐ隣に座った。嫌な予感で体を引くと、彼が気持ち悪い微笑を見せる。


「休暇はどうだった?」

「…おかげさまで、楽しかったです」

「へえーそうなんだ。どこ行って来たの?俺も連れて行けばもっと楽しかったのに」


行く直前はあれだけ嫌味を言っておいて、今日はなぜか気が変わったらしい。適当な返事を準備していると、太ももに変な感触が当たった。顔を上げても、編集長は驚く様子も見せない。


「大山編集長、今なにしてますか?」

「なんだよ、そんな硬くなって。リラックスしなよ、リラックス」

「今すぐこの手を離してください。御用がないなら私は業務に戻ります」

「まあそんなこと言うなよ。お前、又別のやつに昇進のチャンス取られたんだって?慰めてあげようと思って呼んだのに、つれないなあ」


今すぐこのくそ野郎の顔をぶん殴りたい気持ちを必死に抑えて、彩響は編集長の手を自分の体から離した。それでも大山は諦めず、今回はもっと体を密着して背中を撫で始めた。背中のブラの部分を何回か撫でて、彼がささやく。


「なあ、お前もそろそろ会社でいい肩書き欲しいだろう?どうせ女にはチャンス来ないから、俺と仲良くしようぜ。だったら次の昇進審査、俺が必ず力になるぞ」


「いいえ、結構です。私は自分のポジションに満足していますので、お気遣いは無用です」

「そんなこと言わずに…今日、嫁が子供連れて実家に帰ってるんだよ。だから今日帰りにいいところでご飯奢ってあげるぜ。お前とじっくり話したいこともいろいろあったんだよな」