「彩響ちゃん、なんでそんなことしたの?」
先生に呼ばれ、突然聞かれた質問がこれだ。あいつはもう既に先生にあれこれ言ったらしい。彩響が答えた。
「まおちゃんのスカートめくったから、おなじくかえしてあげただけです」
「それは、智史くんが真央ちゃんのことが好きでやった愛情表現なんだよ?」
「どうしてすきなのにいじめるんですか?すきならもっとやさしくするべきじゃないですか?」
彩響の発言に先生は困った顔をする。彩響は再び真央ちゃんを思い出した。あんなに泣いていたのに、それを「好き」だからやったことだとか、軽く言ってしまうのはやっぱり酷いと思った。
「だったらわたしがあいつのズボンおろしたのも「すきだからそうした」っていえばいいんですか?やっぱりおかしいです。わたしはまおちゃんがすきだからもっとやさしくしてあげたいのに」
「男の子はね、そう簡単に素直になれないの。彩響ちゃんはやさしい女の子だから、理解してあげて?そして女の子だから、これから男の子ズボン下ろしたりしちゃ駄目だよ」
「なんで?なんであいつはよくて、わたしはだめですか?女の子だからこれもダメ、あれもダメ。女の子だからなにもかもりかいしてあげなきゃいけないんですか?そんなの、おかしいです」
「そんなこと言ったら、可愛い女の子になれないよ?男の子に嫌われちゃうよ?彩響ちゃんは心の狭い子だ、そう言われるよ?」
何回言っても、先生は同じことを繰り返すだけで、分かってくれなかった。傷ついたのは真央ちゃんなのに、真央ちゃんの気持ちより先生は「男」であるあいつの体面を先に考えるだけで、「女」である私たちにそれを理解するべきだと責めている。
まるで「男」を理解するのが「女」の仕事であり義務であって、それができないとちゃんとした「女の子」じゃないって言っている。頭の中でもやもやと色んな考えが溢れたけど、それをうまく説明するのは小学生の彩響にはまだ無理だった。結局それ以上は何も言わず、それ以来もあいつのいじめ行為は続いたけど、誰もそれを止めようとはしてくれなかった。
「ちょっと歩きましょうか。まだ行きたい場所があります」
ペットボトルを持った寛一さんがぱっと立ち上がった。言われた通り、彩響も彼の後を追いかける。お墓とそこまで離れていない場所に、お店が集まっている小さい道が見えた。一つは八百屋、又一つは酒屋、そしてもう一つは…なにか奇妙な雰囲気のあの店の前で、寛一さんが足を止めた。なんの戸惑いもなく、彼がそのままそこの扉を開ける。鍵もかかってないドアは軽く開いた。
「ここが父の、昔俺も働いていた店です」
「…これ、もしかして…」
「そうです、火事がありました。この店で」



