オスの家政夫、拾いました。1. 洗濯の変態編

彼が指で指したのはお墓だった。碑石が並んでいる通路を少し歩いて、その中の一つの前で寛一さんが立ち止まった。

「お父さん、久しぶりです。こちらは彩響さんです。私の雇用主様です」

碑石の上には「三和裕之」という名前が書いてあった。やっと今まで言ってきた謎の発言が、全部理解できる瞬間だった。彩響が持っていた花をゆっくりと下ろした。

「…はじめまして、彩響です。寛一さんにはお世話になっています」


彩響の言葉に寛一さんがニッコリと笑った。どこか寂しそうで、でも優しい顔だった。


「お父さんはいつ…?」

「6年くらい前です」

「お母さんは、いらっしゃらないですか?」

「さあ、どこにいるのでしょう。生きているのか、それとも…」


最後ははっきり言えず、寛一さんは口を閉じてしまった。彩響もそれ以上は聞かなかった。まるで幼い頃の自分を見ているようで、心が痛くなるのを感じた。大昔、母と父が離婚して以来、「彩響ちゃんのパパは?」という質問が一番嫌いだったから。


「父は俺のことをいつも心配していたので、俺が彩響さんのような良い方の下で働いていることを知ってきっと喜んでいるはずです」

「いや、私もそんな偉いことやっているわけじゃないし…」

「俺にとっては恩人です。今回は予想してない訪問ではありましたが…一緒に来られて嬉しいです」



二人はその場で空いているベンチに座った。自販機で買ってきたペットボトルのお茶を飲むと、彩響は周りの風景を軽く見回した。とても平和な街で、ひと通りも少ない典型的な田舎町。

「寛一さんはずっとここで育ったんですか?」

「東京出る前はずっとこの街にいました」

無口な家政夫さんの幼い頃はどんな感じだったのだろう。ふと知りたくなってきた。

「寛一さんはどんな子供でしたか?」

「え?いきなりどうされましたか?」

「ほら、ここは寛一さんの地元だし、そういう話が聞けるのかな、と思って」

「はあ…とくに面白いこともなにも無いですが…」

「なんでもいいですよ。教えて!」