栄養がきちんと摂れる朝食、綺麗に畳んである下着、整理整頓されている部屋。仕事から帰ってきたら何も考えずそのまま休める、そんな生活。これは全てあの家政夫さんを雇ってから彩響に訪れた変化であり、徐々に日常になった。今日もサラダと卵焼きを美味しく食べて、彩響は玄関に向かう。


「じゃ、行ってきます。今日は夕ご飯お願いします」

「承知しました、行ってらっしゃいませ」


挨拶を交わして出勤すると、自然と夜この家に戻ってくることを想像する。駅へ向かう途中、彩響はふと思うのだった。


(男子はいつも「可愛い嫁が家でご飯作って待っていて欲しい」とか言ってるけど、そういう嫁は私も欲しいよ)



「峯野主任、お電話です。えーと、ミスターピンクという方ですが…」

佐藤君の伝言に彩響は首をひねった。しかし特に断る理由もなかったので、そのまま電話に出た。Mr.Pinkはとても親しい声で彩響に声をかける。


「ハニー、久しぶりだね。調子はどうかい?」

「ご無沙汰しております、おかげさまで元気です」

「実は今ハニーの会社の近所でお茶をしているところなんだ。どうだい、レディにコーヒーを一杯おごらせてくれないか?」


相変わらずなんか変わった人だな…と思いつつ、彩響は時計を確認した。丁度ランチの時間で、彩響は財布を持って席から立ち上がった。


「分かりました、そちらのカフェで待ち合わせしましょう」



カフェに入ると、奥に座っていたMr.Pinkがこっちに向かって手を振った。相変わらず派手なピンクのスーツがとても目立つ。彩響は席に座り軽く挨拶をした。

「こんにちは、この辺には何か御用があったのですか?」