「俺は家政夫で、家事をするのが仕事です。下着も含め、俺が彩響さんの服全て綺麗に仕上げます。心配は無用です、俺は洗濯のプロです」

「ちがう、ちがう!そういう問題ではありません!もう何でもいいから早くそれ返してください!」

「いや、彩響さんより、プロである俺の方がこの下着たちを適切に管理することができます。尤も、下着はすべて手洗いするのがルールとしていますが、必ずしもそうではありません。このようなレースの付いている下着は、専用の洗濯ネットに入れたり、綿100%のものは別途煮沸したりする小分け作業が必要です。ご安心ください、俺が洗濯のプロとしてのキャリアを持って、彩響さんに必ずご満足頂けるよう、綺麗な姿に復活させます」

寛一さんはパンティーたちをぎゅっと握ったまま、中々返してくれなった。もう我慢の限界になった彩響は、ついに大声で叫んでしまった。

「さっさと返せ、この変態家政夫!お前のキャリアなんか知ったこっちゃねえよバカ!」



そのまま寛一さんが持っていたパンティーを奪い、彩響は自分の部屋に飛び込んだ。クローゼットの中から下着を全部出して鍵付きの箱にぶち込み、鍵をしめベッドの下に隠す。まさか自分がカレシでもない男とパンティーのことで揉めるとは、この瞬間まで想像もしていなかった。

その後も寛一さんは何か不満があるような顔だったが、そこからは口を閉じ、別の仕事に専念した。一応その日から今日まで再び下着のことで言い争ったことは無いが…。

(やっぱり男の家政夫なんか、無理だったのでは…)

「…にしても主任、そのブラウスって最近買いましたか?」

「うん?このブラウスのこと?そんなことないけど」
突然の質問に彩響は自分のブラウスを見る。佐藤くんは「やっぱり」という顔で言った。

「やっぱそっすよね?なんか以前主任よくそれ着ていて、覚えているんですけど、いつも凄いシワシワだったから。買いなおしたのかと思いましたよ」

言われた通り、この洋服は以前からずっと着ているブラウスで、特に買いなおしはしていない。ミーティングでこれを着ていることが多いので、佐藤くんが覚えているのはおかしくない。しかし…。

「改めてアイロンでもかけたんすか?今日すごいイケてるキャリアウーマン!って感じしますよ。まあ、いつもそっすけど」

彩響は昨日、大量の洗濯物を丁寧にアイロンしていた寛一さんのことを思い出した。今朝も時間がなくて目についたものを適当に着て来たけど、それは寛一さんが丁寧にクローゼットまで入れてくれたおかげだっだ。改めて他人にこんなこと言われると、あの変態家政夫の存在の意味を深く感じる。彩響は自分に言い聞かせた。

(…雇わないよりはましだったはずだ、きっとそうだ)