本気で喜んでくれる親友の言葉が嬉しくて、彩響も一緒に嬉しくなる。そうだ、ここまでやってきたんだ。理央が言ってるように、もっと自分自身を誇らしく思ってもいいはずだ。彩響がメニューを手に握って笑った。


「じゃあ、ここからここまで全部頼むか!」

「その調子だ!」


まるで前世でニワトリに恨みでもあるかのような勢いで、二人は焼き鳥とビールを口に運んだ。ある程度酒が回り、お互いほど良く気持ちよくなったところで、理央が「あの話題」を聞いてきた。


「ねえーまだあの家政夫さん連絡ないのー?」

「ないよー」

「なんだ、何か文句あるんだったら直接言ってから辞めればよかったのに、なんでそんな風のように消えちゃったの?」

「そんなの、分かるわけないよ」

「ああーあの家政夫さんが来てから、あなたなんか楽しそうで良かったのに」

「楽しそうに見えた?私が?」

「そうだよ、もちろん相変わらず仕事に追われていたけど、それでもなんか生き生きしてたのに」


理央の言葉に彩響は何も言わずただビールをガブガブ飲んだ。自分は全く意識してなかったけど、確かにそうだったのかもしれない。最初はぶつかってばかりだったけど、徐々に家に帰るのが楽しくなったし、そしてもうちょっと時間が経った頃は…。

「…まだお礼もちゃんと言ってないのに」

「まあ、そのうち連絡来るよ。まだ契約残っているから他の家政夫さん来てくれているんでしょう?」

「うん、一応」

「なら良いじゃない。はっきり言って彼だけが家政夫やっている訳ではないし。会社からも責任もって他の人派遣してくれているなら、クレームも入れられないね」

「…そう、だね」

その後もあれこれ食べて、ビールも数杯追加で飲んで、彩響は理央と別れ自分のマンションに戻ってきた。玄関を開け、暗い廊下を通り、リビングに入る。やはり暗いリビングはいつも通り綺麗だった。彩響は上着も脱がず、そのままソファーの上に寝転んだ。

寛一さんが突然消えた後、Cinderella社からは代理として他の家政夫が派遣された。入居家政夫を再び雇う気はさすがに湧かなくて、週3回出退勤する形で契約を結びなおした。もちろん、寛一さんからの連絡はずっとなかった。


(やはり、分からない…)


寛一さんが消えてもう一ヶ月が経つけど、未だにこの暗い家に慣れない。編集長になり、仕事の量ももちろん増えたが、彼のことが気になり仕事が手に付かないことも結構あった。心配と疑問、イライラ、様々な感情が最終的に到着したところは「怒り」だった。ぱっと立ち上がった彩響が誰もいない空間に叫んだ。


「あーもうーなんで私がこんなイライラしなきゃいけないの?それがもっと腹立つんですけど!」


理央の言う通りだ。いくらでも代理の家政夫はいる。実際週3来るだけでも家の状態が大きく崩れることはない。しかし、どうしても寛一さんが気になって仕方がない。彼が今どこにいるのか、どうしているのか、知りたくて堪らない。

ふと例の白い箱が見えた。あの日からずっと放置して、手も付けずにいる。改めてふたを開けると、中には白いドレスがそのまま入っていた。

――寛一さんは、どんな思いでこれを作ったんだろうか。どんな理由でこれを作ったんだろうか。


「せめて、このドレスの意味だけでも教えてよ…」