コーヒーを一杯飲み、今日の新聞をじっくり読んでいると、事務所の外から物音が聞こえた。扉を開けると、そこには例のあの青年が立っていた。


「お、三和くんではないか」

「Mr.Pink、突然すみません」


寛一が軽く頭を下げる。Mr.Pinkは早速彼を中に入れ、ソファーに座らせた。他の職員が茶を持ってくる間、Mr.Pinkが声をかける。


「君のいい仕事ぶりはもう耳に入っているよ。彼女からも星五つ付いたアンケートを貰っているしね」

「…恐縮です」

「謙虚な若者は嫌いではない。…で?今日の用件はなにかね?」

「……」


なかなか言い出せず、寛一はしばらく口を閉じていた。そのまま数分、お茶が運ばれる頃になり、やっと彼が口を開けた。


「…仕事を、辞めたいと思います」




「彩響、こっちこっち!」


いつかのように、仕事を終え馴染みのあるお店に入ると、中から理央が迎えてくれた。焼き鳥のにおいに包まれ席に着くと、理央がいい笑顔でビールジョッキを上げた。


「峯野編集長、おめでとう。あなたならできると思ってたわ!」

「そんな、大げさだよ。でもありがとう」


昇進の話を聞いて、理央はまるで自分のことのように喜んでくれた。もちろん元編集長への悪口も忘れずに吐いてくれて、それを聞くだけでもすっきりした。理央がメニューを渡して言った。


「今日は昇進したお祝いだから、私がおごるよ!食べたいもの全部食べて!」

「なに言ってるの、昇進したのは私だから私がおごるよ」

「またまた~大丈夫、私もこれくらい出せるから!あの会社で生き残って、ここまでやったのが誇らしくて堪らないから、これぐらい払わせて!」