「校長先生からの話大丈夫だった?」
教室への戻り、1時間目の準備をしていると音羽が私に聞いた。
「…うん。模試の結果のことだったの…。
音羽、これ見てくれる?」
少しだけ戸惑ったけど、音羽は自分の気持ちを隠してもそれを見抜いてきっと聞いてくると思った。
隠そうと思っても、隠しきれるはずもない。
「え、沙奈。凄すぎじゃない?」
私の結果を見て、音羽は目を丸くしていた。
「もしかして、大学に進学について何か口出しされた?」
音羽の言葉に、私は頷いた。
「校長先生から、もっと上の大学に進学してほしいって言われたの。
校長先生から、妥協してるとかなんでここなの?って言われて、私の選んだ大学を貶されてるような気がして嫌だったの。
でも、佐々木先生に話を聞いてもらって心が落ち着いた。
何を言われても、校長先生に反対されたとしても私は自分の希望する大学へ行く。」
「沙奈…。
なんか、かっこいいよ沙奈。
強くなったね。」
我が子の成長を感じるかのように、音羽は私の頭をくしゃっと撫でた。
「私も本気で頑張る!沙奈と同じ大学に行けないと意味ないもん。」
前の席で張り切る音羽の姿を見守りながら授業を受けた。
それから、補習の授業が終わってから、音羽や瑛人と分かれてから、保健室へ向かった。
「失礼します…。」
「沙奈ちゃん、お疲れ様です。」
「すみません。私のせいで佐々木先生まで残りになっちゃって…。」
「沙奈ちゃんが気にすることではありませんよ。
それに、沙奈ちゃんと話ができて私もホッとしてるんです。」
「えっ?」
佐々木先生はそう言って、少しだけ悲しい瞳で俯いた。
「沙奈ちゃん。温かい紅茶でも飲みますか?」
「はい。」
一瞬の出来事だったけど、佐々木先生の悲しい表情がどうしても気になった。
「あの…」
「どうしました?」
「いや、その…。
さっき、佐々木先生。少しだけ寂しそうな顔をしたから…。何かあったのかなって思って。」
こんなことを聞いて、佐々木先生が悲しい出来事を思い出して辛い気持ちにさせてしまうかもしれない。
だけど、佐々木先生のことが心配になる。
「沙奈ちゃん…。あなたは本当に心優しい子ですね。
違うんです。沙奈ちゃんの思うようなことは何もないんです。
ただ、2年前の頃を思い出してしまって。
あの日は、病院に行くのにここで翔太さんのことを待っていましたよね。
あなたの手を握った時、手が冷えきっていた…。
沙奈ちゃんの瞳からは、抱えきれないほどの悲しみや苦しみが伝わっていたので。
まだ、少しだけその感じは残っていますが1歩ずつ誰かを信じて、前を向いて歩み出していることに安心してるんです。
まだ、心の声は小さいですがこうして沙奈ちゃんの考えていることや感じていることを声に出して話してくれて嬉しいです。」
2年前のあの日は、自分の体調のことについて精一杯になっていた時期。
それに、高校を卒業したらどうやって1人で生きていこうか考え込んでいた。
紫苑と翔太に、今のように心の内を見せられていなくて。
あまり紫苑や翔太に迷惑をかけないようにと必死だった。
自分の気持ちを押さえ込んで、感情をコントロールしながら生きていた時を思い出した。
ちゃんと笑えるようになったのも、泣けるようになったのもここ最近で、病気が見つかって以前よりも紫苑と翔太と向き合う機会が増えたから。
病気になる前も、私の心と2人は真剣に向き合ってくれていたけど、深く関わることが怖かった私はそんな2人の気持ちから逃げていた。
裏切られることばかり考え、人は信用してはいけないと思っていた。
誰かを深く信じることが怖かった。
たくさんのことを乗り越え、2年経った今こんなに心が穏やかで優しい日常が訪れていることに幸せを感じる。


