「…紫苑。」
「ん?」
「いつもみたいに、ぎゅーってして欲しい。」
思いもよらない沙奈の発言に、俺の心臓はうるさいほどに音を立て加速していく。
少しだけ寂しそうな瞳。
沙奈を抱き上げ、俺は沙奈を優しく抱き寄せた。
背中から伝わる、沙奈の体温。
少しずつ温かくなる、沙奈の心地よい体温。
「沙奈?」
「紫苑、翔太。
私、紫苑や翔太の妹になれてよかった。
死んでもいいって思ってた毎日が、2人と出会って変わった。
初めて感じることばかりで、最初は戸惑いとかあったけど、どんな時でも私の傍で味方になって支えてくれて私は今があるって思ってる。
あの日、私を救ってくれてありがとう。
家族に迎えてくれて、ありがとう。」
「沙奈…」
大きな瞳から流れる涙を指で拭い、再び沙奈の頭を自分の胸へ引き寄せる。
涙で震える背中を撫でながら、腕の中にある小さな温もりを感じていた。
「そろそろ顔をあげられるか?」
落ち着いた頃に、沙奈へ声をかける。
俺の言葉と一緒に、沙奈は顔を上げてくれた。
綺麗に潤んだ瞳が綺麗だな。
今に吸い込まれそうな瞳に、思わず息を呑んでいた。
一緒に過ごしてきて、時間も経っているけどこの綺麗な表情や心に、理性を吹き飛ばされそうになる時がある。
兄弟じゃなかったら、手を出してしまいそうで怖いくらい。
「さあ、そろそろご飯にしようか。」
沙奈の頭を撫で、俺はキッチンへ向かった。
「大翔先輩が美味しいお酒用意してくれたから、腕によりをかけて料理しちゃおう。」
「じゃあ、翔太はつまむものを頼む。
沙奈は、何か…」
沙奈に、声をかけようと視線を向けると沙奈はソファーに横たわり眠っていた。
緊張感が抜けて、相当疲れたのだろうか。
本当、いつも突然眠るよな。
「相変わらず可愛いな、沙奈の寝顔は。」
髪が顔にかからないように、大翔は沙奈の髪を整えてながらそう言った。
「いつ理性が吹き飛ぶか分からないよ。」
「大翔?」
「ごめん。冗談。
って、言いたいところなんだけど俺さ沙奈のこと見ていて小さな変化に弱いんだ。
普段見せないような表情や、いつもと違う様相とか。
時々、理性を吹き飛ばされそうになる時がある。」
「そうだな…」
こんなに綺麗な女性が近くにいて、何もするなと言う方が無理あるよな。
俺や翔太でさえ、沙奈に理性を持っていかれそうになるんだから。
長年一緒にいて、少しずつ耐性がついてきたこともあるけど、妹という存在に手を出してはいけないと俺の中でブレーキをかけているんだと思う。
「俺はさ、大翔のこと信じてる。
それに、沙奈も。
沙奈が嫌でなければ一線を1度超えたとしてもいいんじゃないのか。
それに、万が一のことがあったとしても大翔がその責任を背負ってくれるなら。」
望まない妊娠で、女性が全てを背負うことだってある。
責任の無い男性のその行動で、傷つく女性は数多くいるだろう。
だけど、大翔はそんな責任のない人じゃないから。
沙奈の了承もあってする行為なら、2人で決めたことであれば俺はいいと思う。
だけど、沙奈は病気を抱えているからきっと負担は大きいんだろう。
それに、沙奈の人生を大きく変えてしまうかもしれない。
「ごめん、紫苑。
そんなことを言わせたかったんじゃないんだ。
大丈夫だ。
沙奈が、夢を叶えるまでは手を出さない。
沙奈には、夢を叶えて自分の望む人生を生きてほしいと思うから。」
「…ありがとう。大翔。」
それから大翔は、沙奈を抱き上げベッドへ寝かせた。
大翔が持ってきてくれたお酒を嗜みながら、昔話や沙奈の話に花を咲かせていた。


