全ての仕事が終わってから、真っ先に沙奈の元へ向かった。
穏やかな表情で眠る沙奈を確認して、心の底から安心できた。
「大翔先生。」
「あ…冨山さん。」
沙奈の姿を、確認することに精一杯で冨山さんが部屋にいたことに気づかなかった。
「あれ…翔太は?」
「七瀬先生は、近くのスーパーで沙奈の買い出しに行ってます。
なるべく、沙奈を1人にしておきたくないと七瀬先生から言われて、俺が代わりに沙奈のそばに着いてました。」
そう言って、冨山さんはそっと沙奈の手を離した。
「そうだったのか。ありがとう、冨山さん。」
「いえ。沙奈の担当看護師として、身内として当然のことをしたまでです。
俺ができること、力になれることは皆さんよりも少ないかもしれませんが、今まで以上に沙奈に何かしてあげたいんです。
あの時より、今は力になれることもあるはずなので。」
そう言って、冨山さんは沙奈の頬に優しく触れていた。
沙奈を見つめる表情は、どこか切ない瞳をしていた。
きっと、過去のことで冨山さんは大きな後悔を抱えているんだと思う。
あまり、冨山さんから沙奈との関係を深く聞くことは少ないから、よく分かっていないところもたくさんあるけど。
沙奈と冨山さんの絆は、強く結ばれていることは確かだと思う。
沙奈が、心を許している冨山さんだからこそ俺達が沙奈に付いていられない時に安心して任せることができる。
あれだけ、他人には無関心な冨山さんが沙奈と再会して少しずつだけど、俺達だけでなく冨山さんの周りにいる看護師達にも心を開いてくれている気がする。
そして、こうやって沙奈のことも想ってくれている。
「ありがとう、冨山さん。
冨山さんには、たくさん沙奈のことでお世話になっているから。
沙奈のことは、冨山さんにしか分からないこともたくさんあると思うんだ。
俺達の知らない沙奈を知っている。冨山さんにしかできないことだってたくさんあると思うんだ。
これからも、冨山さんに頼ることがたくさんあると思うけどその時はよろしくね。」
「はい。」
沙奈の幼い頃を知っている冨山さん。
だからこそ、沙奈も俺達と同じように冨山さんを信頼して、心を開いてくれている。
冨山さんにしか見せない表情も多く見てきた。
少しだけ、羨ましい気持ちもあるけど沙奈と冨山さんの関係に口を出すつもりは一切ない。
そんな沙奈の姿を見て、安心していることもたくさんあるから。
「…あれ、大翔先生。」
「沙奈。起きたか?」
冨山さんが、沙奈の点滴を交換してしばらく沙奈の眠りを見守っていると、沙奈はゆっくりと身体を半分起こした。
「まだ眠そうだな。」
今にもまた眠ってしまいそうなくらい、沙奈は眠そうな表情をしていた。
「沙奈、ご飯は食べたか?」
俺の質問に、沙奈は首を横に振った。
「あんまり、食欲がないの…。」
そう言いながら、沙奈は俯いた。
「そうか…。まだ、気持ち悪い?」
「うん。吐きそうな感じはしないんだけど…。
胸が重苦しくて…」
元々、食の細い沙奈がこれ以上何も口にしないのであれば、本格的に栄養管理を考えなければいけない。
ただでさえ、痩せ気味で栄養状態も悪いからな…
元気だった期間を含めても、夏の間だったから以前に退院した時よりも、それ程沙奈の体重は変わっていない。
前に外来に来た時よりも、5kg近くは落ちている。
ここ1ヶ月で、それほど落ちてしまっていたのか。
30kgを切ったら、相当危ないことを沙奈が理解しているからこそ、食事に関して気にしているのかもしれない。


