沙奈は、重い口を開きゆっくり話してくれた。
「本当は、1週間前から立ちくらみが頻回に起きてたの。
目の前が真っ暗になるような感じがして…。
しばらく動けない時もあった。
気持ち悪いのもあったし、少しだけ指先も冷たかったの。
自分の手首で、脈を測ったりして少しずつ触れが弱くなったり、回数が減ってきたりしていたのに気づいてた。
紫苑、前に話してくれたよね?
洞不全症候群の症状。心不全にもなる可能性だってあるから、その症状が出たらすぐに教えてって紫苑言ってたよね。
だけどね、怖かったの。
出席日数が足りなくなって、留年になることもそうだけど、この症状が心不全に近づいているのかなって考えたら、怖くて言えなかった。
だから、ごめんなさい…。」
ずっと怖かったのか。
1人で不安だったよな。
沙奈の涙を親指で拭ってから、小さい体を抱きしめていた。
不安なら、包み隠さず話してほしい。
そうは言っても、沙奈自身が自分の体調の変化に戸惑いがあって、心不全になるかもしれないという恐怖があるからこそ話すことに躊躇うよな。
俺たちが医者であるから尚更。
目に見えない病気の進行に、沙奈は1人怖い思いをしていたのか。
小さい体を震わせて。
不安を悟られないように、必死に隠していたんだな。
今まで、笑顔だったから沙奈の隠していた不安に気づくことができなかった。
1人で不安に駆られていたとするなら、今はその不安に寄り添っていきたい。
だけど、詳しい検査をしない限りは心不全にまで進んでいるのかは分からないよな。
場合によっては、ペースメーカーが必要にもなってくる。
今はそれよりも、沙奈にちゃんと説明しないといけないよな。
少しでも、不安が和らぐように。
現実が厳しいものでも、治療していくのも病気と向き合っていくのも沙奈自身だから。
俺たちが沙奈の治療を精一杯やったとしても、沙奈自身が前を向いて治療に取り組んでいかない限り治療を施したところで意味は無い。
強制的な治療なんて、沙奈が嫌がるだけだしな。
いくら、沙奈に元気になってもらいたい思いが強かったとしても、沙奈の気持ちが応えてくれないのであれば、沙奈に時間を作っていかないといけない。
少しでも、見えない不安をかき消すために、前を向いて生きていくために、兄として医者として病気について話さなければならない。
これからも一緒に生きていくためにも。
「沙奈、もう謝るな。
病気の進行が怖くてたまらなかったんだよな。
誰にも話せなくて辛かったよな。
受け入れたくない気持ちは十分に伝わった。
だけど、検査をして明らかにしないといけない。
こればかりは、不安だし心配だと思うけど早めに病期を明らかにして治療するためにも必要なんだ。
大翔から、説明をされると思うけどその時は俺も翔太も傍にいるから。
だから沙奈。検査頑張れるか?」
俺の腕の中で、沙奈は小さく頷いた。
「エコーの検査を確認して、とりあえず明日お昼の間からホルター心電図の検査を始めるね。
沙奈、今はゆっくり休んで明日また検査の説明を詳しくするから。」
落ち着きを取り戻したころに、大翔が沙奈へ説明をしてくれた。
やっぱり、ペースメーカーの適応かどうかの判断も必要になるかもしれないってことだよな。
沙奈を病院まで連れてきた時の心拍数は良くて30回だった。
ベッドサイドモニターが着いている今も、アラームは頻回に鳴っている。
腕の中で、沙奈は眠りに落ちていた。
沙奈をベットへ寝かせてから、大翔と病室を後にした。


