「…ありがとう、大翔先生。」
沙奈は、優しい笑顔を俺に向けてくれた。
「なあ、沙奈。」
「なに?」
「…倒れる前、どうして病院を嫌がったんだ?」
紫苑の問いかけに、沙奈の表情が強ばったことに気づいた。
紫苑は、少しだけ沙奈から身体を離して沙奈の視線を捉えていた。
1ミリも外さないその視線に、沙奈の瞳は少しずつ潤んでいく。
それから、沙奈は髪を耳に掛けて少しだけ俯いていた。
「沙奈、顔を上げて。」
紫苑は俯く沙奈の顎をすくい、再び視線を捉えていた。
今ある問題から目を逸らさず、決して時間をかけたりせず、真剣に向き合う姿を見ると2人の信頼関係がしっかり築き上げられていると感じる。
過去に向き合い、沙奈の気持ちから目を逸らさず紫苑はずっと沙奈の気持ちに寄り添ってきた。
沙奈も少しずつだけど、そんな紫苑に心を開いていきながら今のような関係になれたんだと思う。
きっとこれは、時間をかけてはいけないと紫苑なりに察しているんだろうか。
「紫苑…。私、またしばらく入院になるの?」
「…ああ。沙奈。しばらくはまた治療が必要になる。
そのために、2週間程入院が必要なんだ。」
紫苑ははっきりとした期間を沙奈に伝え、沙奈の不安が減るように話してくれた。
「沙奈?」
それでも、不安な表情は変わらず何も話そうとしない沙奈が気になり、俺は沙奈を呼んでいた。
「猶予がないの…」
「えっ?」
「私はもう、休んだりすることができないの。
出席日数も、ずっとギリギリで授業にもあまり顔を出せなかった…。
それでも、今までは補習を受けたりテストも追試の形でずっと頑張ってきた。
だけど、本当は担任の先生が何回も校長先生に頭を下げていたの知ってるの。
紫苑だって、そうでしょ?
私に言ってなかったけど、留年させないように何度も頭を下げてくれてた。
私、全部知ってたから辛かったの。
留年になんてなったら、私自分を許せない。」
「沙奈…。だけどそれは沙奈のせいじゃなく病気の…」
「病気のせいじゃないよ。
私が悪いの。全部全部私が…
こうなったのも、自分が悪いわけで…」
沙奈はそう言いかけ、片手で口を抑えていた。
「沙奈?」
「もう…離してよ…。」
「沙奈、正直に話して。
もしかして、もっと前から何か症状があったのか?」
紫苑からの質問に、沙奈は再び固く口を紡いでしまった。


