「いつも雨の日に、遠くを眺めながら何を思ってるのかなって、気になってて。でも話しかけられなかったのは、誰か、好きな人のことでも思ってるのかなって思ったから。だから、話しかけられなかった」
「……ごめん、そんなロマンチックな話じゃなくて……」
「ううん、そうじゃなくて。誰か他に好きな人がいたら、俺、失恋じゃん、って思って」
「……え?」
長瀬くんの思いがけない言葉に、今度は私が立ち止まってしまう。
だって。
それって……。
振り返った長瀬くんが私の方に歩み寄ってきて、茫然としてしまって傘を落としそうになっている私の手を「濡れるよ?」と言いながら掴んだ。
彼に触れられている手が、熱い。
その熱が、そっと離れていく。離れても、熱が、滞留する。
「ちょっと寄っていって」
いつの間にか長瀬くんの家に着いていたらしい。昨日と同じようにちょっと強引に玄関の中まで入れられて、「待ってて」と、また同じようにバタバタと長瀬くんが中へと入っていった。
ねぇ。
さっきの言葉の、意味は……?
聞けば良いのに、聞くことが出来ない。だって、勘違いだったら、怖いから。



