雨の音は、


「……あのね、実はさ」


長瀬くんが立ち止まるので、私も一緒に立ち止まる。再び彼を見上げると、長瀬くんの顔はもう笑ってなくて。


「昨日、傘を友達に貸したって言うの、あれ、ウソ」

「……え?」

「本当は、持ってたのに、ウソついた。ごめん」

「え、っと、うん、別にいい、よ……?」


彼の謝罪の意味を、私は懸命に探していた。


「仁科さんと話すきっかけが欲しかっただけなんだ」


そう真顔で話す長瀬くんが、ふざけてるとは思えない。だからきっと、本当のことなんだろう。だけど、その言葉の真意を、私はまだ探し当てられずにいる。


「仁科さん、いつも雨の日は、ちょっと嬉しそうに外を眺めてて。仁科さんからは雨はどんな風に見えてるのかなって、ずっと気になってた」


嬉しそうに……? やだなんか恥ずかしい、私、そんな風に見えてたんだ。


「そんな仁科さんが、ずっと気になってた。でも話しかけられなくて」

「そう、なんだ? 別にぜんぜん話しかけてくれて、良かったのに」

「うん、そうなんだけど、そうじゃなくて……」


口ごもる長瀬くんの顔が心なしか赤くなっている気がして、私の顔にも再び熱が集まる。

私から視線を外した長瀬くんが再び歩き出したので、私も同じように歩き始めた。