そろそろ連絡が来る頃だな、と思っていたら以心伝心、LINEが来た。
《東京に行くから宜しく》
 と一言だけ。
 貞臣同様大学のサークルで一緒だった同級生、拓郎。今は秋田でホテルマンをしている。業界の集まりが年に一度あり、その時には麻衣子の部屋を拠点に動く。
 関西出身の拓郎が何故秋田でホテルマン? 大手の化学メーカーに就職したはず。結婚した、子どもが出来た、と報告があり、ある日突然退職して秋田へ行く、と連絡があった。結婚相手が秋田の女性? 奥さんの実家へ移住? と不思議に思ったが、風の噂で、浮気がバレて浮気相手と逃避行した、とかなんとか。拓郎なら有り得るか、と麻衣子は思った。
 結局浮気相手ともうまく行かず別れてしまったが、そのまま秋田に住み続けているわけだ。勤務先のホテルである程度の地位を獲得していたので、何の問題も無く暮らせているようだ。

【第3月曜日】
 背が高くスラっとしている拓郎は人目を引く。すれ違う女性の視線が必ず拓郎に向いている。そんなわけで拓郎が女性のほうを見ると必ず目が合う。
「久し振り」
「一年振りだな」
「まるで七夕(笑)」
 スーツケースをガラガラとひきずって新幹線の改札を出て来た拓郎を軽くハグして、並んで歩き始めた。
「今回は何泊?」
「3泊して良いか?」
「勿論」
 もっと居てくれても良いのに、と言いかけてやめた。男たちに対して麻衣子からそのような提案はしないと決めていた。この距離感が無いと複数の男たちとは付き合って行けない。
 
 スーツケースいっぱいに詰め込んでいた秋田名物を取り出したら、ほぼ空っぽになってしまった。
「いつもありがとう」
「夜がつまらなくなるから酒はほどほどにしよう」
 そう言ってから拓郎は着ていたスーツを脱ぎ始めた。
「定年退職したら東京に出て来ようかと思ってるんだ」
 持って来たスウェットに着替え、日本酒の封を開けた。
「え、どうして?」
「秋田にしがらみがあるとすれば仕事だけだしね。仕事が無くなったら居る意味が無い」
 青色の江戸切子に秋田の地酒を注いで2人は飲み始めた。北国の日本酒は旨い、と拓郎は言う。
「なるほど。ご両親のところに帰ることは考えてないの?」
「兄貴が居るからね。俺は要らんやろ。それより…」
「それより?」
「東京には麻衣子が居る」
「私? 私は居るけど居ないに等しいわよ?」
「男の家に入り浸るから?」
「入り浸ってなーい。転々としてるだけ」
「留守にされる俺からしたら入り浸ってるのと同じだよ」
「え、冗談やめて。一緒になんか住まないわよ」
「冗談だよ」
「悪い奴だ(笑)」