【第2日曜日】 
 日に焼けてごつい体付きをした力は、家の中では服を着ない。
 玄関のドアを開ける力は素っ裸だった。いつものことなので麻衣子は驚かない。
 初めて会った時も、雨宿りしながら雨でずぶ濡れのシャツを衆人環視の中で脱ぎ始めたっけ。その時は、
「濡れた服を着ていると風邪を引くからね」
 と言っていた。力の裸の上半身を見て、<いいからだしてる>と麻衣子は思い、それをそのまま口にしたのだった。
「相変わらず暑がりね」
 と笑って麻衣子は部屋の奥へ進む。
 韓国行きの支度中だったのかベッドの上にトランクが開いたままだ。カメラ機材は既に玄関に置いてあった。明日の朝、助手が車で迎えに来る。
「今回はどっちから?」
「羽田。成田じゃなくて助かったよ」
「夕飯を作っても良い?」
「おっ、ありがたい。適当に冷蔵庫の中のを使ってくれれば良い」
 力の冷蔵庫の中はいつもなかなかの食材が揃っている。彼が美食家なのではない。大部分が取材先の残り物や貰い物。クリスマス前にはロティサリチキンがごろっと入っていたことがあった。残りの材料を麻衣子が来た時に使い切ることが多い。
「なんでこんなに卵があるの?」
「長野の養鶏場に取材に行ってどっさり貰った。これでも半分まで減らしたんだぞ」
 野菜も色々ある。卵料理にしよう、と考えているとそれを察した力が、
「卵料理はやめてくれ。もう飽きた。帰る時全部持ってってくれたらありがたい」
 おっと、卵料理は作れない。冷凍室をガサゴソ探ったら鰊のフィレが出て来た。これと野菜でアヒージョにするか。フランスパンは…ある。良し。
 力が小さなワインセラーから赤ワインを出した。魚料理だろうが何だろうが力は赤ワインしか飲まない。麻衣子もそれに従う。ここは力の家だから。
「水曜日に帰るけどその後も居る?」
 と力が珍しく訊く。
「そうね、部屋を片付けとくから置き場所のチェックしてもらいたいし」
「サンキュ、いつも悪いな」
「どういたしまして」
「麻衣子みたいな奥さんが居たら仕事に没頭出来るんだけどなー」
「仕事に没頭するだけの旦那なんて要らないわよ」
「確かに。だから続いたことないんだった」
 力はイイ男だから女が放っておかない。結婚は2回したがどちらも半年で破局した。麻衣子は結婚にこだわらないので力にとっては家政婦以上に気楽な存在だ。男が切れない理由がよくわかる。