【元日】
 カウントダウンの午前零時ジャストはジャンプ!
 20人近い大人が全員でジャンプしたため、床が抜けるかと思われるほどの振動があった。建物は大丈夫だったろうか。知子の父親が球形に削られた氷を床の上に転がして水平をチェックしたので、その場に居た酔客たちは大ウケした。知子の父親もまたかなり酔っぱらっており、そして、娘の結婚が嬉しいあまり調子に乗っていた。
「麻衣ちゃん、初詣行かない?」
 両親と親戚を帰した後、知子は麻衣子を誘って烏森神社へ初詣に行った。当然男連中も一緒だ。男6人、女2人の小綺麗なグループがSL広場を抜け、烏森神社へ向かって歩いている。
「日本に帰って来たら真っ先に店に来てね。帰国祝いのパーティーをするんだから。忘れないで」
 知子は寛明と手を繋いで歩いている。この2人は本当にお似合いだ。干支がひと回り違うとはとても思えない。
 力はずっとカメラを構え、新しい年を迎えた新橋の町と仲間を写していた。
「後でアルバムにするから。ケアンズに送るよ」
 新参者の晶はすっかり仲間として打ち解けている。打ち解けて打ち勝たないと麻衣子を手に入れられないと既に悟っている。麻衣子の周りは強者揃い。会話の内容からどうやら一番若い寛明が美人の知子をゲットしたところまで理解した。ここに居る他の男たちは麻衣子の取り巻き? ステディは居るんだろうか。麻衣子は誰か1人のものというわけではなさそうだが。いずれにしろ麻衣子が帰国したら…俺は麻衣子に手を出す、と晶は心に決めた。
 貞臣と慎吾は麻衣子が居なくなる寂しさを慰め合っていた。知子が寛明に取られたショックもあり、賽銭を奮発するぞ、などと言っている。
 正人は同僚であることを理由に麻衣子から離れなかった。麻衣子が日本を発つまで責任を持つ、と言っている。彼は実際麻衣子に一番近い。職場で毎日一緒に居たわけだし、帰国したら麻衣子は出勤することからは逃げられないのだから。そんな優越感が正人の酔った顔から窺える。