《麻衣ちゃん、こんばんは。出発前の準備で忙しいとこごめん。クリスマスイブに店に来てくれる?》
 と知子からLINEがあった。勿論行くと返事をした。
《ちょっと大事な話があって、ボーイフレンド達は連れて来ないで欲しいの。》
《うん、わかったわ。大事な話って気になる~。》

【第4金曜日】
 知子の店のドアに「本日貸し切り」の札がかかっていた。ドアを開けると、クリスマスの飾り付けが少しあるだけで、いつもと変わらない様子だ。カウンターに寛明が座っているのが見える。カウンターの向こうには知子が立っていた。貸し切りにしたわけだから後から客が来るのかな。 
「麻衣ちゃん、いらっしゃい。ごめんね、クリスマスイブなのに来てもらっちゃって。デートじゃなかった?」
「ううん、流石に旅立ちの前だから落ち着かなくて」
 寛明の隣りに座り、久し振りね、と麻衣子は言った。ちらっと知子のほうを見る寛明。寛明をみつめる知子。なんだなんだこの雰囲気は。
「あのね、麻衣ちゃん…」
 口ごもる知子。意を決したように寛明が、
「俺たち婚約したんだ」
と、言った。
「えっ! ほんとに? 驚いた~。大事な話ってこれのこと?」
「うん。麻衣ちゃんに報告してから公に発表しようと思ってて」
「知子、おめでとう! 私、嬉しい!」
 そう言って知子の手を握ると、麻衣子の目から涙が溢れた。
「寛明、知子を幸せにしてあげて。不幸にしたら私が許さないからね」
「うん、わかってる」
 ハロウィン以後音沙汰無いと思ったら、こういうことだったのか。大事な親友と大事な元教え子(ボーイフレンドの1人)が婚約、麻衣子が予想していた通り、2人はお似合いだ。
「結婚式はいつ挙げるの?」
「来年麻衣ちゃんが帰って来てからにする。麻衣ちゃんにも出席して欲しいから。籍は年明けに入れようと思うの。麻衣ちゃんの出発の日にしようかって話してて。」
 キューピッドの麻衣子に敬意を称して、と寛明が言った。
「おじさんとおばさんは何て?」
「父が寛明を気に入っちゃったの。寛明ったら父に論文を提出したのよ。笑っちゃうでしょ。そしたら父が、『お前たち結婚しろ!』って。寛明もその場で『はい!』って即答。私の気持ちは無視よ」
 と楽しそうに知子は笑っている。
 知子の父親が寛明を気に入った理由がわかる気がする。寛明は潔い男だもの。
「帰国の楽しみがあって仕事のし甲斐があるわ」