【第2火曜日】
 寛明がマーケティング関連で知子の役に立ちたいと言い始めたことから、麻衣子は力ももしかしたら彼の方面で知子の役に立つのではないかと考えるようになった。知子の会社にはもう広報部門があるだろうし、今更不要かもしれないけれど、紹介するぐらい問題無いだろう、と。
 11月に入ると力は海外に行かない。この季節は日本国内の画像に集中すると言っていたっけ。クリスマスが近くなると若いカメラマンは海外、特に欧米へ行きたがるそうだ。だから力はその時期の海外は若い奴らに任せると言っていた。
 力を知子の店に誘ったら興味を持ってくれた。

「麻衣ちゃん、いらっしゃい。いつもありがとう」
 力の後ろから顔を覗かせた麻衣子に対して、知子はいつものように「いつもありがとう」と言った。力には伝わらないけど、この「いつも」には深い意味がある。
「今日は有名カメラマンを連れて来たわよー」
 力の反応を伺いながら言うと、案の定力は美人の知子に見惚れている。多くの女優やモデルを被写体としている力にとって美人は見慣れているだろうが、商品化されていない美人は新鮮に映るのかもしれない。
 ここからは2人の会話の成り行きに任せることにする。麻衣子としては力が知子をモデルにして何か作品を仕上げれば良いのにという気持ちがあった。麻衣子自身広報を業務としているが、同業他社に手を貸すわけにはいかないので、ちょいちょいヒントを出すだけにした。
「お店のPR用ちらしとかポスターとかに知子も写れば良いのに」
「俺ならカレンダー作るけどなぁ」
「知子のでしょう?」
「うん。月ごとに装いを変えて」
「ステキ。私、買うわ、それ」
 知子は笑って聞いている。良いとも悪いとも言わない。知子だって実業家なのだから、商機があるか頭の中でしっかり考えているに違いない。そこに力や寛明がどう関わって来るか。楽しみだ。
「知子さんがイヤでなければうちの女性誌で特集したいな。企画案出してみるよ」
 流石力、話が早い。彼の企画は通らなかったことがない。知子がダメと言わない限りこれは実現の可能性が高い。

「麻衣子は交友範囲が広いなぁ。感心するよ」
「そう? 寧ろ狭いと思うけど。幼小中高大の友達からそんなに離れてないもの」
「いいや、広い。俺の知る限り様々な業界に通じている。今回俺を知子さんに紹介したのもその流れだろう?」
 漠然とそうなれば良いなと思っただけで、確信があったわけではない。だが、力がそう言うなら麻衣子は人脈に恵まれているのかもしれない。職場でも活かされている能力であることは間違いない。