【第4火曜日】
 正人と麻衣子は仕事の後、知子の店で待ち合わせた。いつものように麻衣子が先に到着し、正人は後から合流する。
「今日はまた違う人を紹介するわね」
 と、麻衣子は知子に言った。
 中学の時、麻衣子の周りにはいつも男子が居た。話題が尽きず、どんな話題にも瞬時に適応する能力のある麻衣子が知子は羨ましかった。今も変わらず麻衣子は多くの男性と付き合っている。その資質の半分でも享受したいと知子は思った。
 そして今、麻衣子はその男性達を自分に紹介したいと言っている。とても楽しみだ。武夫を含めて麻衣子と関係のある男性が今日までで4人。皆それぞれ魅力的で社会的地位もあり、一体どこでどうすれば出会うことができ、付き合い続けていられるのか知子は不思議だった。
「結婚を前提に付き合っている人は居ないの?」
 と知子は麻衣子に訊いてみた。結婚はこりごりだ、自分には向かない、1人の男に縛られる人生なんてもう考えられない、と麻衣子は答えた。それは武夫というつまらない男と結婚したからであって、
「慎吾さんとか貞臣さんとか、武夫に比べたら全然ステキなんだから、考えが変わるかもよ?」
「それね、男たちみんな同じこと言う。自分は違うって。男はね、釣った魚に餌をあげない生き物なの」
「そうかなぁ。みんな麻衣ちゃんのこと凄く好きだから、大事にすると思うけどなぁ」
「それよ、知子。みんなに大事にされたいの。たった1人に大事にされたところでそのうち飽きちゃうに決まってる」
 麻衣子の発想は昔からこんなだった、と知子は思い出したことがある。
 麻衣子は中学2年の時、ある同級生男子から交際を申し込まれた。同時に3年生男子からも交際を申し込まれた。どちらかと付き合うのかと思ったら両方と付き合い、しかも交換日記を始めたのだ。普通なら日記帳は2冊用意され、それぞれの男子とやり取りをするものなのだろうが、麻衣子は1冊を3人で交換し出したのだ。
 まず麻衣子が1ページ目を書いた。それを同級生に渡す。同級生は2ページ目を書き、それを3年生の先輩に渡す。3年生は3ページ目を書いたら麻衣子に返す。麻衣子は4ページ目を書き、今度は3年生に渡す。3年生は記入後に同級生に渡し、最後に麻衣子に戻す。それを1周とし、また繰り返す。
 知子は彼女らの日記を見たことがある。麻衣子が特に隠そうとせずに机の上に開いたまま置いてあったからだ。だから知子だけでなく他にも見た者は居たかもしれない。
 内容は前夜に観たテレビ番組のことだったり、授業のことだったり、その頃に起きた事件事故のことだったり、多岐にわたっていた。面白かった。そのうち、その同級生と先輩が仲良くなってしまい、3人は完全なる友達同士として付き合い続けた。
 その日記の存在は教師達にも知れ渡り、中には読ませろと言って来た教師が居た。そうそう、あの国語教師は麻衣子の文章を読んで感心してたっけ。職員室にまで持って行ってたから、多くの教師達の目に触れたことだろう。
 そんな発想が麻衣子を光らせているのだと知子は思った。

 正人は2歳上だけあって少し大人びていた。4人の中で一番麻衣子に惚れているように見える。結婚相手として考えると良いお父さんになりそう。具体的な家庭像が見えるタイプだ。知子は麻衣子のボーイフレンドの中から1人選ぶとしたら今のところ正人だな、と思った。果たして正人は自分のほうに向いてくれるだろうか。

「麻衣子の同級生、美人だなぁ」
「みんなそう言う(笑)」
「俺、付き合っちゃおうかな」
「みんなそう言う(笑)」
「みんなを連れてってるの?」
「うん。まだ全員じゃないけど、そのうちみんな連れてく」
「麻衣子のハーレムになりそうだな」
「知子のハーレムでもあるわよ(笑)」