【第1火曜日】
「麻衣ちゃん?」
 駅の改札を出てすぐ後ろから呼び止められて振り返ると同年代と思われる女性が立っていた。麻衣子はほぼ化粧をしないが、その女性は割りと派手めな化粧をしている。だから少し老けて見える。化粧は若作りのためには良いかもしれないが、若いならしないほうが良い。
 麻衣子はその顔に見覚えがあった。鼻の形、鷲鼻で先が細く特徴的。
「知子?」
 先方は麻衣子をちゃん付けで呼んだが、麻衣子はちゃんを付けなかった。
「うん、知子。久し振りだねー」
「何年振り? 20年振りか!」
 中学2、3年の時同じクラスになったことがある知子だ。スタイルが良く運動神経抜群だった。1960年代の洋楽をよく聴く子だった。
「麻衣ちゃんはこの辺で働いてるの?」
 正人と待ち合わせをするための居酒屋に向かうところだった。珍しく新橋で。
「ううん、待ち合わせ。知子は?」
「私はここで働いてるの。飲食店だけどね。今度来てね」
「うん、わかった。どこ?」
 店の名前を聞いたが行ったことのない店だった。後で検索しよう。LINEを交換し、今度会う時はお店かな、等と曖昧な話をして別れた。
 麻衣子の後ろ姿を見送る知子。麻衣子は相変わらず颯爽と歩く、と中学時代の麻衣子を思い出した。知子も麻衣子も痩せているが麻衣子は胸が大きく、それが知子は羨ましかった。自信に満ちて歩いているように見えるのはあの胸のせいだな、と知子は思った。表情から察するにきっといい仕事をしているのだろう。麻衣子は成績が良かったし、高校もレベルの高いところに入った。大学に進学したはず。中学時代から男子に人気があった麻衣子のことだからきっと結婚もしているだろう。子どもも居るかもしれない。それに比べて自分は…裕福な家に育ったが、結婚出来ずにいる。今付き合っている男性はバツ1だし、なんだか結婚する気が無さそうだ。店には来るけど大して飲まないで帰って行く。知子の部屋に来るのは体が欲しい時だけ。他に女が居るようにも思う。別れるのは寂し過ぎるから言われるまま求めに応じている。
 知子の視線を背中に感じながら麻衣子は振り向かずに歩いていた。知子は美人だ。裕福な家に生まれ育ち、中学生だというのに持ち物はブランド物ばかりだった。高校は伝統のある女子高に行ったはず。大学に行った話は聞かない。美人だからきっと親の紹介かなんかで金持ちと結婚しただろうな。あ、でも飲食店で働いてるってことは専業主婦ではないのか。もしかしたら自分の店なのかも。
 1分後に麻衣子が振り返った時、知子はもう居なかった。視線を感じたのは気のせいか。自意識過剰?
 さて、新橋を開拓して今日は正人の家へ行く日。知子の店の話をしよう。正人と一緒に行こうかな。