【第1火曜日】
 目覚まし時計が鳴る前の、針がカチっと合わさった音で目が覚めた。鳴り始めるまでの1秒間で素早く目覚まし時計に手を伸ばし、スイッチを切った。
 隣に寝ている男の顔を見る。そして、
「あぁ、今日は火曜日だっけ」
 と気付く。
 男を起こさないようにゆっくりベッドから起き上がる。朝食が出来上がったら起こせば良いか、と思いながらバスルームに向かう。

「慎吾、朝ご飯出来たよ」
 寝室のドアを少しだけ開けて声を掛けると、ふぁ~い、と気の抜けた返事が聞こえた。起きて来るのを待たずに食べ始め、食べ終わる頃にようやく慎吾が起きて来た。トーストはすっかり冷めてしまった。
 固くなったパンに溶けないバターを無理矢理塗り込んで、慎吾は食べ始めた。
「今度はいつ来る?」
 火曜日の朝のお決まりの質問。
「うーん、いつになるかなぁ」
 残り少ないコーヒーを少しだけ口に含み、飲み込んで麻衣子は答えた。
「ここに住めば良いじゃんか」
 どの男も必ずそう言う。麻衣子がうんと言わないことはわかっていて。

 食べ終わり、身支度をして2人一緒に部屋を出た。
 麻衣子は都心に向かうが、慎吾は東京西部へ向かうので、反対側のホームに立つ2人。どちらかが先に電車に乗ると目立たないように手を振り合って見送る。
 今度慎吾の部屋に行くのはいつにしよう、と麻衣子は考え、慎吾はまた暫く独りになるのは寂しいなぁ、と考えている。

 麻衣子と慎吾は幼稚園からの付き合いだ。付き合いと言っても高校生になって再会するまでインターバルがあった。しかも同じ高校だったわけではない。慎吾の高校の文化祭に麻衣子が同級生と一緒に行った際、その同級生が慎吾の従妹であることが判り、10年振りの再会となったわけだ。元々家族ぐるみの付き合いがあったので、極々普通の幼馴染として大人になった。
 お互いに結婚と離婚を経験し、再び出会った時、自然に大人の男と女の付き合いが始まった。が、麻衣子には他にも男が居る。再婚する気も無いようだ。完璧に慎吾のほうを向いているわけではないのは明らかだ。
 慎吾はそれでも良いと思っている。自分だって縛られるのはイヤだから。