’何か’



ある日

何ヶ月ぶりに朝に起きた


部屋を出ると誰もいない


当たり前だ


家族なんかいたことがない


私は生まれた時からひとりだ


施設に置き去りにされてずっと施設で育った


18歳で施設を出て、いろいろな仕事をして
お金はもう要らないと思うほど稼ぎ、今に至る



今20歳



2年でこれだけ稼げたのは他でもない
いろんな仕事を掛け持ちしたからだ




仕事を辞めてから私はおかしくなった




朝起きることは少なく、夜に起きるようになった





それはあることが原因だ





家族がいない私には朝が辛い




テレビに映るのは家族の話題や
可愛い子供の映像



どこかの家ではこんな朝があるんだと思うと
心が痛くて仕方がない





そこから夜に起きるようになった





昔のことを思い出しながらリビングへ向かった



コーヒーを淹れようとお湯を沸かす



テレビはつけない


音楽をかけた




口ずさみながらコーヒーを淹れ、飲む




タバコを吸いながら思った



今日は外に行こう





昼間に外に出るのは久々だ












着替えを済まし、メイクをして靴を選ぶ




ファッションもメイクも大好きだ






着飾ることしか私にはない



一歩家を出た瞬間、日差しが強くて目眩がした



薬を飲もうと思い戻る



その時、叫び声が聞こえた



「おいごらぁー!」



びっくりしつつも家へと戻り薬を飲んだ





もう一度家を出て鍵を閉めた




さあどこへ行こうかな、と思っていると
家の目の前に車が止まっているのが見えた





私の住んでるアパートの前に車が止まることは
あまりないので、何かあったのかな?と思いつつ
私は歩き始めた





「暑いなぁ。早めに帰ろう」



私は大好きな場所へと向かった













着いたのは、




周りには住宅や他の建物のない施設の屋上





私はいつもここにくる



ここは誰でも入ることのできる場所だ




廃墟となっているここは私が昔からしていた施設だ




一年前に施設がなくなってしまった




経営してた人が亡くなり、続けられなくなったらしい






でもここは私にとって落ち着く場所



施設で暮らしていたときも、出てからもここにくる




誰も人がいないのがいい





いつもここで歌を歌う





私の好きな歌を大声で歌うのが楽しい






明るい時に歌うのは初めてで
周りに人がいないか確認してから歌い始めた






「♪〜〜〜♪〜」









歌い終わると後ろから足音が聞こえた




振り返るとそこには知らない男の人がいた





誰だろう、ここの関係の人かな




帰ろうと思い足早に歩いた




屋上の扉を出る手前で男の人とすれ違う



その瞬間、話しかけられた



「なんていう歌」




足が止まる





「何か」





「今歌ってた歌なに」





「知りません」





それだけを言って私は施設を出た





外には朝みた車があった





同じ車種の車かな?そんなことを思っていると
施設からさっきの人が出てきた






「乗るか?」



私が見てることに気づいたのかそう言ってきた





「いえ、結構です」





「前も見てただろ」





え?前も?どっかで車見てたっけ?







あ、あの夜だ




あのときまた車これだったんだ




「もう帰るので大丈夫です」







「じゃあ送る」







え?なんで?この人おかしい人だな






「誘拐とかじゃないから」







私はシカトして歩き出した









もうすぐ家だ、そう思ったとき








さっきの車が横を通り過ぎた






すると、私の家の前で止まった





え?なんでまた?





そう思ってると車から降りてきた人がいた







あ、さっきの人




降りてきた人は私の方を見て




「やっぱり乗ればよかっただろ」






????




「お前、ここの住人だろ」






「え?」




「お前のこと見たことあるから」





いつ見られてたんだろうか



夜ばかり行動してて、ほとんど人と会うことは
なかったはずなのに




疑問に思いながらも家へと入ろうとした





さっきの人も私の後ろを歩き始め




鍵を開けて入ろうとすると声をかけられた




「隣に越してきた桐谷です」



「ああ、どうも」




「じゃあ」





私も部屋へと入った




あの人なんなんだろう




そう思いながら寝る準備を始める






お風呂に入ってさっぱりした







「ふぅー、今日は疲れたなぁ」




独り言を話しているとチャイムがなった

〝ピンポーン



ん?誰だろう




玄関へと向かいドアを開けると
さっき挨拶をした隣人、桐谷さんがいた




「なんですか」







「あ、風呂上がりか」




??




「ちょっと話したいことがあるんだが
 家入ってもいいか?」




「え、うちですか」





「できればその方がいい」





まあ、いいか





「どうぞ」






桐谷さんは部屋に入り、リビングのソファに座った




「コーヒー飲みます?」




「ああ、ありがとう」





話ってなんだろう




いきなり人の家に入ってくるのはどうかと思う



そんなことを思いながらもコーヒーを置いた





「話ってなんですか」




「お前、家族は」





「いません。生まれた時から」





「そうか。なら話は早い」




「俺の女にならないか」






は??こいつ何言ってんの
頭いかれてる?




「いきなり何ですか」




タバコを取り出し火をつけた




「お前タバコ吸うのか」





「はい」




「じゃあ俺にもくれ」