<グスタフ皇国の大広間・舞踏会・1年後・エピローグ2>

アンバーの成人の儀を祝う
舞踏会が、盛大に始まっていた。

アンバーは挨拶に忙しかったが、
クラリスの姿を、必死で探していた。

舞踏会の
最後の曲を踊る相手・・

それはアンバーの結婚相手と
認知される。

クラリスも一月後には
成人の儀を迎える予定だ。
ただ、
今日はまだ未成年だから、
誰か保護者が、ついて来ているはずだ。

クラリスは
バルコニーの端の窓の側に、
カーテンに隠れるようにいた。

かわいらしい、白に緑の小花が
散っているドレスを着ている。
髪にも白い花が飾られている。

この場所にいる貴族の娘の
誰よりも可愛い、
アンバーは思った。

そのそばには
椅子に座っている女性。
深くベールを被っている。
クラリスの母親だろう。

最後の曲の紹介がなされた。

アンバーはまっすぐクラリスの側に行き、手を差し出した。
「最後の曲は、
クラリス、君と踊りたい」

クラリスは
少しはにかみながらも、手をのせた。
周囲がざわざわしている。

グスタフ皇国の皇太子のお相手は、魔女の国、
それも、グランビア家の次期当主
なのか。

広間の中央には、もう人がいない。
アンバーとクラリスは踊り始めた。

曲が終わり、
アンバーは、クラリスの手を握り、
広間の中央に立った。

これで舞踏会はお開きだ。
最後の挨拶をしなくては・・・

「もう1曲、追加をしてもらおう」

皇帝が立ち上がり、手を叩いた。
これは異例な事だ。
何のために・・
周囲がどよめいた。

皇帝はまっすぐに、グランビアの
当主が座っている前に進んだ。

「グランビアの当主、
ダンスの相手を、お願いしたいのだが」
このような場所で、拒否はできない。

皇帝自らの申し込みであり、
拒否すれば
国際問題になることを
グランビアの当主も理解していた。

しばらく、間があったが
グランビアの当主は、椅子から
立ち上がり、皇帝の差し出された
手に、自分の手をのせた。

二人は広間の中央に歩み出た。

「まず、ベールを上げていただきたい。
踊るのには邪魔なんでな。
それから、この後、
同盟の件と、息子の婚礼についても話し合わねばならない」

グランビアの当主は、うつむき加減に言った。
「皇帝陛下・・早急すぎます・・」

「強引さがないと、国を治めるのが厳しい時がある。
あなたも、苦労しているのだろう」

皇帝は、グランビアの当主のベールをそっと持ち上げた。

周囲の人たちは息を呑んだ。
魔女がこれほど美しいとは・・

そして静まり返った。

「これで、わが国とあなたの国の
つながりを、
皆が理解できるだろう」
皇帝は満足げに、
グランビアの当主の、アメジストの
瞳を覗き込んだ。

「さぁ、曲を・・」
皇帝が合図をした。

音楽がはじまり、二人は踊り始めた。

それを見ていて、
クラリスは、独り言のようにささやいた。
「お母さま・・よかった・・」

アンバーはそれを聞いて
「君は?クラリス?」
クラリスは返事をする代わりに、
アンバーの手を握った。

そして
クラリスは、庭に目をやった。
庭でイーディスとミエルが、
踊っている。

音楽は、まだ続いている。
3組の恋人を祝福するように。
                            おわり