<小高い丘の上・16時>

クラリスは
小高い丘の上に立っていた。
ここからはグスタフ皇国の街が
よく見える。
そして王宮も。
もう少しで暗い闇が落ちる。

ペンダントを返すには、
フクロウを使うのが一番だろう。
彼らは夜目が効く。

アンバーは
ちゃんと約束を果たしてくれた。

イーディスの
あのとろけるような笑顔・・
かなりむかつくが・・!

これも<仮>(あるじ)としての務めだと思う。
グランビア家のためにも。

私の周りの人が、
幸福になってくれれば、
私も嬉しい。

クラリスは
胸からペンダントをはずした。

ちゃんという事をきく
フクロウを選ばねばならない。

とても大切な物を
運んでもらうのだから・・

クラリスの後ろで
枯れ枝を踏む音がした。
「クラリス・・
まだそれは返さなくていい・・」

アンバーは
ゆっくりとクラリスのほうに
近づいた。
クラリスは少し戸惑いながらも、
アンバーを見て言った。

「だって、
約束を果たしてくれたじゃない。
ありがとう。

私も<仮>(あるじ)としての務めを果たせたわ」

クラリスはペンダントを、
アンバーに差し出した。
アンバーは
その手を自分の両手で包み込んだ。

「まだ、約束は半分しか果たして
いない・・残りは・・」

「残りって?」
「君の国、魔女の国を消さないために、どうするか・・
二人で考えようって」

クラリスは力なく微笑んで言った。
「無理かな・・
でも、そう言ってくれて、
嬉しい・・ありがとう」

二人は向き合って立っていた。
「クラリス、
今の僕には力がないけど、
成人したら必ず君を助ける」

アンバーは父親のように、
なりたくないと思った。

魔女の国は宝石のように美しい。
失いたくない。
クラリスはうつむいた。

その様子を
木の陰で見ていたミエルが
ささやいた。
<アンバー、誓いのキスよ!
クラリスを抱き寄せなさい!>

ミエルの側にいたイーディスが
不思議そうな顔をした。

「いったい、
君は何をやっているんだ?」
ミエルは
イーディスの足を踏みつけた。

「使い魔と(あるじ)は、
意思を通わせることが
できるじゃない!!

あなたたちはやらないのっ?
それにふたりをくっつけると
言い出したのは、イーディス、
あなたよ!」

アンバーはまるで催眠術にかかったかのように
ミエルの指示に従った。
クラリスの手を取り、引き寄せた。

「誓いのキスだ・・」
アンバーの声は小さく、かすれていた。

ミエルがささやく
<大人のキスよ・・
中途半端はだめっ・・>

イーディスは驚いて、ミエルの顔を見た。
「君はアンバーと・・・!」

「ばかっ!
アンバーはまだ未成年よ。
ちょっと練習したけど」

イーディスの顔が、泣きそうになった。
「練習って・・どこまでなのさ・・俺は君としたいのに」

ミエルは怒って
「それなら、ちゃんと協力してっ!
クラリスに
アンバーを受け入れるように、
あなたから言って!」

イーディスは
いささか納得がいかないような
顔をしたが
<クラリス・・
アンバーが迫ってきたら・・
受け入れるしかないぞ?>

「なに?その微妙な言い方は!!」
ミエルはまたイーディスの足を
踏んづけた。