<平原の穴ぼこ・17時>

アンバーは
もう一つの謎について聞いた。

「その、なぜ、魔女の国の人は、
老婆に姿を変えるのかな・」
クラリスは即答した。

「きっと、秘密主義なんだわ。
自分の手の内を、みせたくないってやつ。
ババぁなら、皆、気にも留めないし。
その時に相手の弱みとか、いろいろ観察するわけよ。
考えようによっては、陰険よね」

穴はすでに暗い。
アンバーは聞いた。
「君は次のグランビア家の当主に
なるんだろう?」
「ならない・・」
そのクラリスの声には、力がない。

「不幸になるのは目にみえている。
お母さまは<もう、いい>って
言ってくれたの。
自由になりなさいって、
ただ、この交流会はなんとかしなくちゃならなかったから、
・・しかたないけど」

「でも、君は・・」
アンバーが言いかけたが

「不幸な当主に統治される国民は、不幸だと思わない?」
そう言って
クラリスは膝に顔を埋めた。

クラリスの背負っているもの、
自分の背負っているもの、
それぞれがとてつもなく重い。

「私たちは成人になったら
自由に外に出られないの。
長時間、日に当たると体調を崩すから。」

「だから日のあたるところでは
ババぁに姿を変えて、
日傘をさして日が当らないようにする。
今のうちに外の美しいものを、
できるだけたくさん見ておきたいの。
・・・あなたのクラビィーアも
美しかったわ。
でも、音は消えてしまうでしょ・・」

「そのうち、魔女の国も・・
消えてなくなると思う・・」
クラリスはすすり泣いていた。

「グスタフ皇国に攻められたら、
ひとたまりもないわ。
そうなる前に、みんな消してしまう。・・
お母さまはその覚悟なの」

「そんな事は・・」

アンバーは困惑した。
父上が極秘で調べているのは
その件なのか?
「イーディスは代々グランビア家の使い魔なの。
私個人の使い魔ではないわ。
お母さまとイーディスは・・
すべて消す力を持っているの」

アンバーは背筋がぞっとした。

あの時、
言い争いをした時、
よく殺されなかったかと・・
ミエルが止めに入らなかったら、
どうなっていたことか・・

「イーディスは(あるじ)
対等な立場で契約をする。
ううん・・
イーディスが(あるじ)を選ぶのかな・・」

「美しいものがすべて消えてしまう・・何もかも」
クラリスはアンバーを見た。
そしてうつむいた。

「私には何もできないの・・
私も・・消えるから・・」

アンバーは驚いてクラリスを見た。

が、下をむいているので
表情はわからない。
クラリスの深い絶望は、
体が小刻みに震えることで、
アンバーに伝わった。