<平原の穴ぼこ・16時30分>

「君はなんで、試験の時に
父上の絵を描いたんだ?」

クラリスは一瞬<見られたか>
という表情をしたが、
すぐに答えた。
「お母さまのために・・
でも、皇帝陛下ではないわ」
「え・・?」

クラリスは
片手で落ちていた小枝を取り、
地面になぞるように線を引いた。

「月に一度、薬草リキュールの密売があるの。
グスタフ皇国の境目でね。
お母さまも必ずその場所に行くわ。
トラブルが起きた時には、
すぐに道を閉じなくてはならないから。」

クラリスはポケットから、
ハンカチに包んだ包みを取り出した。
「毎回来るグスタフの商人が
いるの。
その人は皇帝陛下によく似ている。
グスタフの人は、結構似た感じの
人が多いでしょ」
「確かに・・」

グスタフの男性は
がっしりとした体躯で、髪は黒、
瞳は茶色、成人になると
ひげを生やす者も多い。
アンバーはうなずいた。

「お母さまの目が・・
その商人の姿を追っている・・
のがわかる。
話も何もしないし。
その人は薬草リキュールを買って
すぐ戻るし」
クラリスは下を向いて続けた。

「たぶん、その人の事が
好きなんじゃないかって思う・・」

その商人は父上に違いない。
クラリスの母親に会いに
行っているのか?
ようやくアンバーは、パズルが
解けた気持ちになった。

確かめなくては!

「あの、聞いていいかな?
君のお母さまってどんな人?」
「そうね、私より、ずっときれいなのに・・・
なんであんなババぁに
なるのかって・・
思うぐらい姿を変えるわ」

クラリスはハンカチの包みを
開いた。
中にはクッキーが4枚あった。

「半分どうぞ、私が焼いたの。
ハーブ入りだから
好みは分かれるけど。」
「ありがとう」
アンバーはクッキーを2枚取った。

「お母さまは
いつも不幸そうにみえる。
魔女の国を統治するのは大変なの。他の家系を押さえ込むのもね。
みんな仲が悪いし。
100年前の話を蒸し返したりして」

クラリスはクッキーをかじった。
「だから、お母さまには・・
幸せになって欲しい。
その、商人が好きならね、

でもその商人は
ババぁなんて相手にしないから、
無理な話だと思うけど」
「そうなんだ・・」

アンバーもクッキーをかじった。
ハーブの香りは
薬草リキュールを思い出させる。

父上は
気が付いていないのだろう・・
クラリスの母親がいることに・・・