河田は「おっ!特進の星もついにおさぼりか」なんて言いながら煙草の火を消した。

「探しちゃったよ、鞄はあるけどいないんだもん!」

何かあったのかと聞くと山岡は焦って顔を横に振った。

「あ、いや、そうじゃないの……不安になっちゃって」

「まー、いいじゃん! たまにはみんなでサボろうぜー! っかさ、試験終わったら海行こうぜ、海、花火大会あるじゃん」

「確か来週末だったよね」

「ちょうど試験終わった辺りじゃん な? よくね?」

あんまり人ごみの多いとこはな

それにここからも花火は見れるし

「あ、こら黒沢、てめぇ今面倒ーとか思っただろ」

「潤、人が多いトコ苦手?」

「人混み中の何割かは、河田みたいなバカがいるだろ」

「をい、俺かよ」

「うーん……」

「ちょ、山岡ちゃん、そこで真剣に考えない考えない!」

河田は考え込む仕草をしている山岡の前で手を振る。

「あはは、河田君てほんとおもしろいよね」

山岡は言って笑った。

「むしろ俺は、山岡ちゃんがそんな笑うタイプだとは思わなかったけどな」

「え? そ、そうかな?」

「死の待ち受けが出てるのに、笑ってられるなんて強ぇーよ、山岡ちゃん」

「笑ってられるのは、みんながいるからだよ」

山岡の視線が、俺の視線と交差する。

首をかしげると、山岡がにこ、と笑った。

塩の香りがうっすらとする風が屋上を駆け抜ける。


日差しは夏

試験が終われば夏休み


面倒なことは、全部休み前に片付けなきゃな。