森先輩の葬儀は雨だった。

俺は制服を着て、家を出る。

長谷川沙織の葬式、森先輩の葬式

「気が滅入る」なんて言葉があるが、滅してしまってチャラになるなら安いものだと思う。

現実はそうもいかない。

長谷川沙織の葬儀には出席できなかった敦子も、森先輩の葬儀には出席すると、芙美叔母さんから電話があった。

敦子の家のインターフォンを押すと、芙美叔母さんが出てきて、家に入った。

「ごめんね…敦子準備できてなくて」

「大丈夫。俺が早く来ただけ」

階段を上って敦子の部屋をノックする。

いつもなら、敦子の「ハイハーイ」という明るい声が返ってくるのに、今日はない。

「敦子、入るぞ」

ドアを開けると、ベッドに伏せるようにして、敦子が横になっていた。まだ着替えもできていなくて、薄いピンク色のパジャマを着てぐったりしている。

虚空を見ていた黒い瞳が、揺れる。

「じゅ……ん」

敦子は俺を確認するなり、瞳に溜めた涙をベッドへ落とした。

入り口で立っていたが、後ろ手でドアを閉めて敦子に近づいた。

近寄って、かがみ込むと丁度敦子の顔の位置と同じになった。

「も、り先輩」

敦子はそこまで言うが、続きが声にならない。

ただ、口だけが、「死んじゃったんだよね」と動いて見せた。

あの光景を見て、トラウマにならない奴はいないだろう。

俺もあの後、不気味な浮遊感にさいなまれ、気持ちが落ち着かなかった。

森先輩と仲の良かった敦子が、俺以上のショックを受けるのは当然だ。

いつも明るく振る舞う敦子だが、酷く繊細な面があるのを俺は知ってる。

俺が一番知ってる。

何も言わずにじっと敦子を見ていると、敦子も何もせず俺を見ていた。

芙美叔母さんがそっと紅茶を持ってきてくれると、部屋中が優しい紅茶の香りで満ちた。

「今日、葬儀、なんだよね、分ってる」

敦子はとぎれとぎれに呟く。