俺はドアに向かって体当たりしていた。

「じゅ…潤!やめて先輩が……」

「それどころじゃないだろ!今の音……あれは」


ゴギン


「黒沢!」

堀口俊彦も一緒になってドアへ体当たりする。

その度、部屋の中では鈍い音が聞こえてくる。


ギゴ、ゴキン


先輩の声はしない。

プツン、プツンと、糸が切れるような音だけがする。


いや、敦子の耳元では聞こえているのかもしれない。

敦子はケータイを離さないまま、震えていた。

音を出さず、唇が動いている。

「いや、いやぁ……」

敦子は首を振ってしゃがみ込んでしまう。

そんな敦子を介抱しようと、隣人が敦子に触れたとたん、ドアが開いた。

勢いで飛び込みそうになった俺を、堀口俊彦の肩が止める。


目に映ったのは鮮烈な、赤……

呆然とする、血の臭い…

部屋は、かつて森先輩だったものが、天井から首を吊ってぶらさがっていた。

首……? そこは首なのか? いや、これは、人?

おかしい。

これは、もう人じゃない。

堀口俊彦の、嗚咽が耳を通過する。

俺は、あるべきところに手と足がない、入り組んだオブジェのような先輩の姿をまっすぐに見ていた。

涙が

森先輩の白い顔には涙の筋が流れていた。

手元にはケータイ。

「いやぁあああああああああああ!!森先輩ーーー!!!!」

敦子の悲痛な叫び声が頭を痺れさせる。

ずるりと、手らしきものからケータイが落ちる。

ゴトン、と音がしてケータイが床と接触して、待ち受けがこちらを向いた。