「全然だめか、だとしても、ケータイだけは」

堀口俊彦が毒づくが、俺はそこに一言加えた。

「どうする? どこに電話するんですか? 違う番号にデタラメにかけたとしても、被害が広がることに変わりない」

言ってて、空しくなってくる。

「先輩が死なないわけじゃない。回避方法の答えはまだ」

「これじゃ、景と、同じ……」

堀口俊彦はそこまで言って顔をあげた。

「いや、景と同じならなおさらだ、あいつ、錯乱して飛び込む前にひたすら電話かけようとしてた。どこにかけようとしてたかは分らないが」

堀口俊彦は視線を少し落として続けた。

それは堀口俊彦にかけようとしていたんじゃないかと俺は思ったが、口には出さなかった。

「景は朝から調子が悪くて」

渋谷景は駅までくるので精一杯だったと言う。

声をかけてもいつもより上の空で

歌が

と、何やら追い詰められて呟いていたと言う。


電車に乗り、ドアが閉まった途端

渋谷景は真っ青になり暴れ出し

西大路駅でホームに出たが、ケータイを握り締めどこかへ電話を必死にかけようとして取り乱し


ケータイを抑えた堀口俊彦と悶着の末

何かから逃げるようにホームから逆側の線路へ転落


そして


ケータイには、0が点滅した。


「俺には景を守れなくて」

ぎゅ、と堀口俊彦の握り拳が引き締まる。

「景は、飛び込んだ……」

堀口俊彦の声がだんだんと小さくなる。

最後の最後で、電話

なら今取り上げなければ、どれだけ森先輩を守っても伝染は止められない。

「これ以上被害は広げられない」

堀口俊彦は言って、きっと森先輩を見た。

その視線に森先輩はビク、と身体を痙攣させて後退する。