俺が小さく頷いて立ち上がると、堀口俊彦は思い出すようにして続けた。

「森さんのことは、景から聞いた覚えがある。甘川の彼女だろ?」

「甘川先輩のこと、知ってるんですか?」

「知ってるさ」

堀口俊彦の声に少し棘があるように感じたが、今更死んだ甘川充のことに触れてもしょうがない。

「……行きましょう」

森先輩の家までナビを敦子に頼んでいると、途中で敦子の言葉が詰まった。

「敦子?」

『できるだけ、早く来て』

「どうした?何かあったか?」

『森先輩の具合がおかしいの。私だけじゃなんか心配で』

「あと、堀口さんも行くから」

『あ、さっき私が電話に出た人だよね。ムーントピックで潤が会った人!』

「そ。今から行く。森先輩を頼むぞ」

『うん』

ケータイを切ると電車に乗る。

堀口俊彦は無言で俺に付き添い、車窓を睨みつけていた。

手が少し震えているのに気が付いたが視線を逸らす。

逸らした顔を上げると、森先輩の住む四条大宮駅だった。

駅を降りて区役所へ向かい、宮本町の看板を入って、すぐ。

小さな神社が見えたら、その向かいのマンションの3階。

308号室。

入り口でカメラ越しに敦子と会話すると、フロアの入り口が開く。

エレベータに乗り込んで、ドアが開いたらすぐだった。

「潤!」

敦子は玄関を開けると、飛び出して抱きついてきた。

よろけると後ろで堀口俊彦が俺の背中を支えてくれた。

「お、おい……敦子?」

「先輩を助けて! どうしていいか、私……もう分かんないよ!」

敦子を見ると涙目だった。