「おい、まさか……」

後ろからペンで河田が背中をつついてきた。

俺は何のリアクションも帰さず、瞳を閉じた。

担任が出て行くと、クラス中が長谷川沙織のことを話はじめた。

目を閉じていると、たくさんの声が集まってくる。

『なんか、人死にすぎじゃない? アレかなーほら、ウワサのさ』

『沙織が病気だなんて聞いたことないけど……』

しょうがなかったが、たまに耳に飛び込んでくる死の待ち受け、という言葉が心をかきむしった。

確実に噂は広まっている。

死が広がっている。

刺激のない授業はあっという間に過ぎた。

2限の数学Cの教科書を出したまま、肩を叩かれ起きたのは4限

山岡が俺を覗いていた。

「潤、お昼だよ」

いつから覚醒の糸が切れて寝てしまったのか。

寝不足だったんだな、と思いながら背伸びした。

「黒沢。授業態度、点数期待できないぞ」

河田は言って山岡と笑った。

「そういえば、敦子ちゃんはもう学校来たかな」

山岡に言われ、ケータイを見る。

昼休みになれば大体ここへやってくる敦子のことだから、来るかと思っていたがそういえば…

ケータイを取り出して、画面を見る。

新着メールのアイコンが画面に出ていた。

開くと案の定、敦子だった。

『潤、電車どう?なんか人身事故で電車ストップだって? 私、今日先輩の家に夕方までいることにしたよ。出ていける状態じゃないの。担任には風邪って言っといたから、なんか言われたら口裏合わせといてネ!』

「森先輩のとこいるって」