「……可哀想な奴」

大切な人なんて

そう簡単にはできないだろ

それを、こんなに無意識に殺せる式を考えるなんて

悪魔の式だな。

「潤君」

声がして、階下に視線を投げた。

山岡がいてこちらを見ていた。

「どうしたの?何かあった?」

「いや別に……死の待ち受けの嫌な点に気づいただけ」

「嫌な点?」

「人間の感情をうまく利用してるな、って、誰にだって大切な人間はいるだろ」

「潤君」

「君付け、やめろよ、なんかガキみたいだろ」

まるで捨て犬でも慰めるかのような山岡の視線に、軽く噛みついてみる。

そうだよね、ごめん、と山岡は視線を階段に投げた。

「えと……ねぇ、潤」

「ん?」

「好きな人を殺すなんてできないよ」

「でも、この死の待ち受け作った奴はそれも計算してると思うぞ、俺は」

「だって、大切な人は、自分が死んだって守りたいと思うよ」

山岡の声は微妙に震えていた。

山岡の言うことはもっともだ。

普通の思考ならそう思うに決まってる。

だけどこの死の待ち受けの式を組み立てた奴は、どっかで頭のネジが抜けたに違いない。

「教室帰ろう、結構教室に集まってきたよ」

山岡が微笑んだ。

天井から差込んでくる明るい天使の梯子が

暖かく山岡を照らしていた。