「……最悪な式だな」

「だから何が!!」

河田は考え事をしていた俺に大声でツッコミを入れた。

「……こっちの考え事の話」

俺は言いながら森先輩を思い出した。

「お前、長谷川沙織が甘川充先輩と仲良かったって話知ってるか?」

「え?沙織?やー……なんつーか、八方美人ってか」

河田のビミョウな反応で分った。

窓に視線を投げたまま、重いため息をした。


ケータイには秘密が隠されてる

小さな世界の縮図とも言える


泥沼のような関係も、こうやって面に出てしまう。

長谷川沙織の最後の発信、甘川充

甘川充の最後の発信、長谷川沙織

それだけで2人がどんな関係だったか

想像できる……

長谷川沙織の発信をほぼほぼ埋めていた、『美鶴』の隠し名

信じていた森先輩は、愚かだったんだろうか

先輩が酷く可哀想に思えた。

だから、尚更死なせるわけにはいかない。

「おい、大丈夫か黒沢? 顔色悪いけど」

「あ? あぁ。ちょっと風当たってくる」

河田が心配そうにこちらに視線を投げてくる。

俺はオレンジジュースを持って教室を出た。

山岡とすれ違った気がするが、俺はそのまま階段を上がっていく。


屋上のドアは、まだ早いせいか施錠されていた。

しょうがなく俺は階段に座り込んで天井を見た。

天井は一部硝子張りで、透き通った青い空が映っている。

「……死の待ち受け」

死の待ち受けを作った奴は、大切な奴を殺したかったんだろうか

俺はぽつり、とそう呟くと、瞳を閉じた。