山岡は焦った素振りを見せて、話を変えようとした。

「あのね、さっきの話の続き」

そういえば、河田から電話が入る前に話を振られていた。

「絵里子が最後に私に電話くれた時、ちょっと様子がおかしかったんだ。告白して、気持ち落ち着かないんだろうって思ってたんだけど……電話で、絵里子が言ってたの……歌が聞こえるって。電話から、頭の中から、歌が聞こえるって」

「着うたとかじゃなくて?」

「違うみたい」

山岸絵里子はこんなことを最後に山岡へ言ったらしい。


歌が聞こえる、悲しい唄
私もうだめ、千恵

私ちゃんと言えなかったんだ、好きだって
どうせフられるって分ってるなら、ちゃんと言えばよかった。

辛い、だから幻聴なんて聞こえるのかな
ねぇどうすればいい? 今から、伝えて届くかな

「私その時は、動揺してるんだと思って……もう一度話した方がいいよって、伝えたんだ。それで、絵里子は潤君にちゃんと伝えた?」

「何を」

「潤君が好きだって、最後にちゃんと伝えてきた?」

「……俺が最後に山岸と話したのは、昼休みの屋上だから……」

山岡は足を止めてカバンから山岸絵里子のケータイを取り出した。

ピ、と電子音がして、山岸のケータイの発信履歴が表示された。

表示の一番上には、「山岡千恵」の名前

その下にあった未登録の番号……

「この番号、潤君だよね、080-9638-10XX」

「……俺だ」

「敦子ちゃんが気づいたんだよ。夜は色々あって言えなかったけど……」

「絵里子、本当に何も言わなかったの? 絵里子が最後の最後に私にかけた電話は、私、とれなかったんだよ」