√セッテン

目立たない性格してるのに、ケータイの色、赤なんだ。

手は、小刻みに震えていた。

「く、黒沢君、誰か好きな人とかいるの?」

「いるよ」

即答すると、山岸絵里子はあからさまにショックな顔をした。

山岸絵里子はケータイを握り締めて、やりどころのない視線を屋上の端へ向けた。

顔色が悪いな。

……具合でも悪いんだろうか。

「彼女いるって噂があったから、やっぱり、だね」

「噂?」

あぁ、まぁ、色々噂は立つだろう。

敦子みたいにあけっぴろげな奴が傍にいれば誤解もされるだろうし

少なからず明るい敦子を好きな奴らもいるだろうから、色々やっかむヤツもいる。

「変な噂、流されるのはゴメンだな」

「噂とか、黒沢君はそういうの、興味なさそうだよね」

「噂なんて、根拠のないものは興味ない」

「死の待ち受け、とか知ってる?」

「は?」

「噂、もちきりだよ」

山岸絵里子は言って不思議な笑顔を俺に向けた。

「死んじゃうんだよ、それが出ると」

意味は分からなかったが、正直気分が悪い。

だからなんだ、そんな話がしたいのか?

それに気づいてか、山岸絵里子が気まずそうな顔をして、一端視線を逸らす。

涙を溜めているようにも見えたが、山岸絵里子はふらふら、と屋上の入り口に向かう。

「黒沢君、ありがと、じゃ」

涙を押し込めるようにした声が耳に届く。

ゆっくりと、振りかえる。

もう山岸絵里子はいなかった。