「私も同じなの、潤も、敦子も選べない。どっち大切で。でも……」

両手でいちごミルクを包み込んで、山岡は続けた。

「後悔しても、もう遅い気持ちたくさんあるよね、それで、もっとさくさんの人を傷つけることだってある。自分だって、傷つくのに」

俺はじっと山岡の黒い瞳を見つめる。

「正しい道は、自分1人じゃ選べないけど、選ぶために1歩を踏み出す勇気は必要だって思った」

山岡の言葉にはとても重みがあって、目が離せなかった。

「敦子は勇気があって、それだけじゃなくて、優しさと一緒に私とぶつかってくれた」

ぐず、と山岡は鼻をすすった。

「私はとっても幸せだよね。蔵持さんが聞いたら、羨ましいな、って言うと思う」

羨ましいな、と言ってはにかむ蔵持七海の姿が、瞼の裏に浮かぶ。

√の女という狂気を共有した山岡には

もっと鮮明に浮かんでいるんだろう。

「お礼を言わなきゃ……ありがとう」

「……こちらこそ、ありがとう、山岡」

屋上で対峙したとき、√の女が一瞬俺への発信を躊躇した。

あれは、お前の思いが止めてくれたって、知ってる。

大切な人は、守らないといけないという、答を貫いたんだ。

「私は、霧島さんや蔵持さんのためにも、毎日を大切な日々だって思って生きて行かなきゃいけない、ちゃんと選んで生きていかないと」

そうすれば、と山岡は言って俺を見た。

黒い瞳が、まっすぐ俺を射抜く。

それが、山岡の得た答えなのだろう。

「幸せになれるよね。潤も、敦子も、私も……みんなが」

問われた言葉に、俺はゆっくりと答を返した。

「大切なのは、答えじゃなくて過程。答えに辿り着く方法はいくらでもあるし、どれも間違いじゃない」

袖机に置かれた、物理の回答用紙に視線を投げる。

「失敗しても、部分点貰えればそれでもいいんじゃない?」

俺の言葉に、山岡は、そうだね、と花が咲くように笑って頷いた。

「でも残念、今回の試験も、あと一歩で潤には勝てなかったな」