病室に戻っていちごミルクを差し出すと、山岡は喜んで受け取った。

「やっと受け取ってもらえた」

「え?」

「この前、教室でお前にいちごミルク買って渡したのに、お前逃げたから」

「あ……あの時は、ごめんね」

「ぬるいとマズイから、捨てた」

山岡は、そうじゃなくて、と言ったが、話を切り替えた。

「あのね、蔵持さんと、池谷さんのこと、話してないよね」

「?」

「2人は、吉沢さんのこと、好きになったでしょ? それでケンカして、あんな惨事になった」

「……そうらしいな」

「私の中に、√の女が生まれた時、全部記憶の共有したんだ。その気持ちって、私が潤を思う気持ちと、敦子を思う気持ちとすごく良く似てるの」

山岡はじっと手元のいちごミルクを見つめている。

「蔵持さん、池谷さんの事が大切で、大好きで、傷つけられなかった。吉沢さんと池谷さんどっちかを選ぶかなんてできなくて、両方傷つけないように、自分も傷つかないような道を選んだ」

俺はオレンジジュースにストローを指して、その光景を思い浮かべた。

傷つけられる苦しみを知っているから

もう誰にも傷ついて欲しくなかった

蔵持七海の言葉が頭を掠める。

「親友も、好きな人も、どちらも選べなかった」

俺の呟きに、山岡は頷いた。

「もっとちゃんと池谷さんと向かい合っていれば、って蔵持さんはずっと思ってた、傷つけあっても、本当の友達ならそれを乗り越えていけたはずなのにって」

山岡は、ぎゅ、と瞳を閉じた。

その思いは、あの暗闇のホールの中で生まれた思いなのだろうか。

辛そうな山岡の顔から、想像がついた。