山岡は、しばらく検査入院をすることになり、翌日の全校集会は欠席した。

試験休み中に起きた転落事故とはいえ、すでに噂は学年中に広まっていた。

"2年生が、屋上から落ち、それを助けて部外者が逆に死んだ"

勉強のしすぎでまいっちゃったんじゃないか、なんてふざけた話も出ていた。

だが一番有力視されていたのは死の待ち受けによる自殺だった。

廊下を歩いていると、嫌というほどそんな話が耳に入った。

山岡は休んで正解だと思う。


来週からはもう夏休み。

休みが明けるころには、この話は浮上してこないだろう。


全校集会では、転落事故についてサラリと触れただけで、しばらく屋上は閉鎖するという説明だけ。

体育館が熱風呂になる前に生徒は解放された。


当たり前の日常、当たり前の生活。

戻ってきたんだか、今まで自分が非日常の世界にいたのが夢だったのか

感覚がイマイチ戻らない。


これから一気にテストが返却されるし、結果でも見れば目が冷めるだろうか。


そう、今


俺の中は、ひどく空っぽだった。


ノートを閉じ、ページをめくるのを待つような

そんな感覚。


後はただ、反復して眠気が襲ってくるだけだ。

こんなのが、日常だったっけ。


「黒沢」

担任の声がして、閉じていた目を開けた。

「また居眠りか、一緒に脳みそ溶けても知らないからな!」

ぼぉ、と頭を上げる。

「ほらっ、テスト返却」

取りに来いというサインだろう。席を立って紙束を受け取った。