「霧島さんの保険証を探しに、マンションに行くんだが、飯島はここにいるか?」

「私はここにいる。千恵も心配だから」

「そうか、じゃあ、2人は頼んだ」

堀口俊彦は言って、白い廊下を歩いて行った。

伸びる影が、照りのある廊下の光に揺れていた。



15時30分、訃報が告げられた。



真っ先に敦子が立ち上がる。

俺は視線を外へ向けた。

霧島悠太の瞳はもう、輝くことはない。

敦子が泣いた。

頭の中でサー、と潮が引いていく。

記憶の中の霧島悠太が1度だけ笑ったような気がした。


敦子はまるで自分のことのように泣き

俺は敦子を慰めるので頭が一杯だった。

病院の窓の外で、学校と同じようにセミが鳴いた。

セミの居場所を確かめてやろうと、敦子の肩を抱きながら外を見る。

セミの鳴き声が、自分の泣き声のように聞こえた。


彼の手帳をめくる仕草を思い出す。

同じ手帳だった。

『霧島です』

そう言って差し出された名刺を受け取った。

はじめて彼と会った時のことを思い出す。