√セッテン

「お前はこんなこと、望んでないだろ、お前、生きたいって、言っただろ!」

√の女は俺をじっとみつめたまま、飛び込んでくる敦子に備える様子をみせなかった。

√の女の手が震えていた。

「私……」

黒い視線が、揺らいでいる。

「大切な……人は……死んだって……」

頭の中で書き取った沢山のメモを、思いきり消しゴムでかき消すような勢いで声を張り上げた。

「蔵持七海!お前はもう、死んでる!山岡、お前は生きろ!」

敦子が飛び込んできて、√の女はケータイを握りしめたまま屋上に伏した。

「敦子!」

「七海!」

霧島悠太が飛び込んでくる。

もみ合っていた√の女に振り切られ、敦子は柵に叩きつけられた。

敦子の痛みが柵の振動となって俺の腕にも伝わった。

霧島悠太が√の女と対峙する。

2人は睨み合うような、見つめ合うような、会えなかった時間を埋めるように数秒黙していた。

「霧島さん、ちょっと、手出さないで」

「そういう訳にはいかない!! 七海は」

敦子は霧島悠太の言葉を無視して√の女を睨んだ。

キラリ、と太陽光に照らされて敦子の胸元でオープンハートが輝く。

「敦子! 死の待ち受けは完全には消えてない!山岡のケータイにはまだ、残ってる、お前が最期の着信なんだ!」

「潤も黙って見てて! これは、私と千恵と、この女の戦いでもあるのよ!」

「私と? 何言ってるの、敦子と千恵の命は両方私の手の中なのよ」

√の女は山岡の首の前で、親指を立てて横にスライドしてみせた。

「死んだりしない、負けたりしない! 千恵だってあんたなんかに負けない」

敦子は√の女へ食いかかって向いの柵へと叩きつけた。

√の女は余裕の表情だった。

痛みは山岡のもので、√の女にとって痛覚などもうないのだろう。

「森先輩と千恵を返して!」

襟を掴んで、敦子が叫んだ。

「堀口さんの彼女を、あんたを信じて守ろうとした霧島さんの気持ちを返して!!」