たとえ発信と着信で死の待ち受けが広がるとこの死の公式が分っても

人はどうにもできないのだろうか。

誰かにかければ、愛する人には表示されないと気づいて

心にもない相手に発信をするかもしれない。

人の心は弱いから、ほんの一瞬の安らぎのために人を地獄にけ落とす。

因果応報、いつかそれが、ループして自分の元へ戻ってくることも知らずに。

そうなったらたしかに、√の女のいう醜い世界だと思う。

死んでしまうなら、2人に声くらい聞かせてやりたいとも思った。

山岡も敦子も俺を好きだと、あんなに好きだと言ってくれたから。

耐え難い恐怖の中でも、必死に俺を守ろうとしてくれたから

だけどそれは、√の女の描く式だとも分っていた。

最期に、愛しい人の声を聞きたいと願い、着信に残ることで、結果としては死の待ち受けは愛した人を蝕む。


俺はゆっくりと自分のケータイを手に取った。

2つの"0"に挟まれた、俺のケータイは普通の待ち受けを表示していた。

涙が溢れて、頬を滑った。

空へ舞い上がる花火とは逆に、俺の涙は地へと滑って流れて床でミルククラウン型に咲いた。


....♪.♪♪♪♪.♪..♪


画面がパっと輝く。



着信。


視線を上げると、暗い部屋の奥で、√の女が微笑んで立っていた。

伸びた手が、俺に近づく。

ヒヤ、とした冷たい感触を感じた。

はじめて『感触』を得て、気が付いた。

口を開くと、急に冷たい感覚が全身に走る。

意識がブれた。

もやの掛かった視界を振り払うようにすると、いきなり感覚が現実に返った。