√の女の言葉に、霧島悠太はとても静かだった。

「信じてるよ」

その、色素の薄い目に宿る光は強く、こちらまで息を飲んだ。

「奇跡を起す力は、自分の中にしかない。呪いだって、退けてみせる」

「あなたが愛すべき"私"はもう死んだの。贖罪のつもりなんでしょうけど、遅すぎた。あなたの愛情じゃ私は、解き放たれない!!」

√の女の手に、力が籠もるのが分かった。

「わたしを助けてくれたのは、潤だったのよ」

「やめろ! もう殺すな!」

跳ね起きて√の女を後ろから羽交い締めした。

「霧島さん! 堀口俊彦と……敦子に知らせて下さい!」

霧島悠太はやっと金縛りから解放されたように、はっと顔を上げた。

「こいつは……あなたの知る、蔵持七海じゃない、√の女だ!」

「潤は、また痛い思いがしたいの……? 」

まるで刃物を握るかのような冷たい感覚が体中を走る。

だがこの手は離してはいけない、と強く力を込めた。

「黒沢君!!」

「早く!! みんなに知らせることができるのは、今、あなたしかいない!」

霧島悠太は、未練たっぷりの顔だったが、俺の勢いに頷いて、病院内へと走っていく。

「……ねぇ抱きしめるんなら、もっと優しく抱きしめて」

ドス、と鈍い音が左腹部にした。

「っ……!!!」
 
苦痛で表情をゆがめると、その瞬間手の中から√の女が消える。

そして横から首めがけて、手刀が打ち据えられた。

意識が一気に地面に落ちていく。

くみ上げた積み木を、思い切り崩すように、バラバラと……