カバンの中に

D902i



そして、俺の手の中に

簡易充電器を受けて、赤くランプが光る

D902i


同じ機種の2つのケータイが、俺の視界の中で朝日を受けて輝いた。



カバンを覗いた時、正直ぎょっとした。

ケータイは俺のポケットに入っていて、充電が切れていたはずだった。

なのに

ケータイはカバンの中に当たり前のように入っていて、着信ランプが光っていた。


じゃあ、ポケットに入っていたケータイは誰のモノなのか……


記憶を巻き戻しすれば、すぐ思い立った。


蔵持七海のケータイだ。


アムリタのエントランス、ホールの入り口で倒れたとき

床に落ちていたケータイを拾ったあの時だ。


あれは、俺のじゃなくて、蔵持七海のケータイだったんだ。


同じ形、同じ色

意識が混濁していたせいもあるだろうが

色形が同じというだけで、自分のケータイが落ちたと勘違いをした。

蔵持七海と俺のケータイが同じ機種だというのは聞いていたが

まさかこういう形で2つ並べるタイミングが来るとは思ってもみなかった。

警察に回収されずに済んでよかった。

……だけど

なんで蔵持七海のケータイは、締め切られたホールの外、エントランスにあったんだ?

エントランスの外にあった、ということはホールに閉じこめられた蔵持七海が操作することなんてできない

死の待ち受けはケータイから発されたものではない

そういうことになる。