頭の回転が、一瞬止まった。


ひや、と冷たい感覚が襲ってきた。

カバンの中には、俺のケータイが入っている……

しかし、俺の……





ケータイの着信ランプが、赤く点滅していた。


「潤?どしたの?」

敦子がカバンを覗いた。

「あ、着信あるよ、誰?さっきの私のコールかな」

敦子は言って、カバンの中に勝手に手を入れた。

「あっおい……!」

「何焦ってんの? 誰からの着信なのよぉ怪しいなぁ、はい」

敦子はケータイを取りだして、俺に差し出す。

画面には、ポップアップで「着信あり」と表示されている。

画面右下には、アイコンで着信マークと、着信数が表示されていた。


着信は5件

発信は、すべて河田。

間を置かずに、何度もコールされていた。


「なんだー河田君じゃん」

敦子は着歴を見て、拍子抜け、という顔をして窓を開けた。

朝の澄み切った空気が全てを洗い流していく。

海から吹き付ける潮風が、敦子の巻き髪をすくいあげた。

俺は手で自分のポケットを確認して、それから自分を落ち着かせた。

「酔った?」

敦子は真剣な顔をしていた俺に、心配そうに声をかけた。

「私より、潤の方が重傷だよね。霧島さん急いで~」

「了解」

俺はゆっくりと着歴からリダイアルする。

サイドボタンを押して画面をスライドさせて耳にあてた。