「敦子、おばさんを頼む」

俺は、ゴク、と息を飲み

意を決して部屋に入る。

部屋に置いてあった低いテーブルをひっぱりだして踏み台にして、照明から引き離そうと、力を込めて捻る。

長谷川沙織の重みが、体中にかかった。

「っ……くそっ」

やっとの思いで引き離すが、どっと降りかかった長谷川沙織の重みを支えきれず、俺は一緒になって床へ転げ落ちる。

「っ……う、痛……長谷川ゴメ……」

「じゅ……潤……」

入り口で敦子が細い声を上げる。

「は、長谷川さん、だ、大丈夫……?」

急いで長谷川を仰向けにして抱き起こす。

首に巻き付いていたシャツを引き剥がして、声を掛け続けた。

「長谷川っ!おい!」

苦悶の表情のまま、長谷川沙織はピクリともしない。

白目を剥いたまま、明後日の方を見つめている。

「救急車は?!」

「もう電話したよ!!」

だらんと開いた口からは、唾液が滑り落ちていた。

急いで心臓へ耳を当てる。

「…………」

自分の脈が、あまりにドクドクとうるさくて、長谷川沙織の鼓動のようにも感じた。

だが、長谷川沙織の心臓はもう動いていなかった。

「…………」

呆然とする。

こういう時にどうすればいいかなんて、学校では習わない。

心臓マッサージか? 人工呼吸か?

それってどっちが先だった?

階段を急いで上ってくる足音がした。

驚いて部屋の入り口を見ると、救急隊員が俺の所へ走り寄ってきた。

問われるままに、俺は自分がした行動を答える。

問答が終わると、部屋の外へとはじき出された。