敦子は一度嗚咽をもらし、目を逸らして、階段を駆け上っていった。

1人にしてはいけないと、傍にいた堀口俊彦が後を追った。


だが

俺と霧島悠太は、腐敗した蔵持七海の亡骸に声も目線すらも逸らせず

立ちつくしてしまった。


緩いウェーブに

長く伸びた黒髪

髪には俺の記憶にはない(当たり前だが)白い花の髪飾り

首には立幸館の指定シャツがからみついて

黒い……エントランスにあったものと同じ照明にきつく結びつけられていた。


この光景は知ってる。

長谷川沙織の自殺の仕方と全く同じ……


俺は声を上げられなかった。

霧島悠太も同じだった。

間をあけて、霧島悠太が膝をつける。

落胆にも、悲哀にもとれる、細い吐息が聞こえた。



「君を救えなかった……」



差込んだ光が、またゆっくりと陰る。


ホールはまた、暗闇に包まれた。

俺は、黒く塗りつぶされた頭を懸命に奮い立たせて、霧島悠太の肩に手を置いた。

「……霧島さん」

霧島悠太からは、返事がない。

「一度、出ましょう。警察に、連絡する必要があります」

霧島悠太の色素の薄い瞳からは一筋、涙が落ちて行った。